田中洋が語る、世界に通じるブランディング(第5回)

「産廃業」を「環境ビジネス」に変えた女社長の努力

2018.03.12 Mon連載バックナンバー

「ブランドイメージ」というコトバがあるが、あるブランドについての評価を測定したとき、それは本当にそのブランド固有のイメージなのだろうか。

 経験的に言えば、あるブランドのイメージは、そのブランドが属する商品カテゴリーによって規定されることが多い。銀行のブランドイメージは銀行業のイメージに影響されるし、チョコレートブランドのイメージは、チョコレートを含むお菓子のイメージに大きく左右されてしまうのである。

 それでは、個々のブランドの努力で、事業イメージを変えることは可能なのだろうか。こうした課題に果敢にチャレンジしているのが、埼玉県にある廃棄物リサイクル業者の石坂産業株式会社(以下、石坂産業)である。

 

産廃業のイメージを覆す「ホタルが光る」敷地

 埼玉県三芳町(みよしまち)にある石坂産業本社の設備と環境は、これまでの「産廃業」のイメージを一新させるものである。同社の敷地約17万8,570平方メートルの約87%、 東京ドーム約3.8個分は森林で、残りが 石坂産業の本社とリサイクルプラントになっている。プラントはすべて全天候型の完全オールクローズド型で、そこからの騒音は外部にはほとんど聞こえない。また、持ち込まれる廃棄物の95%を処理できる技術があり、汚染物質や有害物質が出てくることもない。

 敷地内にはホタルが育ち、山百合が咲く周囲の広大な緑地がある。ここは広場や公園、森などになっており、子どもたちが安心して遊べる施設である。一帯は里山テーマパーク「三富 今昔村」(さんとめこんじゃくむら)と呼称され、くぬぎの森環境塾、三富今昔語りべ館、くぬぎの森交流プラザなどの設備や施設が揃っている。このような施設はどのようにしてできたのだろうか。 

 

二重三重の下請け構造が不法投棄を生み出した

 現在の石坂産業のトップは石坂典子氏。氏は埼玉県に生まれ育ち、インテリアの仕事に就きたいと思い描いていた少女時代を過ぎ、高校卒業後にアメリカへ留学する。アメリカで得たのは、ネイルサロンビジネスという発想だった。このビジネスへの資金調達のために、典子氏は事務職として、父が社長を務める石坂産業の手伝いをスタートする。

 事務の仕事を通して見聞きするうちに、業界の在り方がわかってきた。基本的に産廃業は、他社に依存して利益を出す仕組みである。価格が優先し、産廃処理は安ければ安いほど良いことになる。

 産廃業界の構造は次のようなものである。建築廃棄物で言えば、ハウスメーカー、請負工務店、リフォーム業者などさまざまなプレーヤーがいるものの、彼らは自分で建築物を壊すことはせず、下請けに任せる二重三重の下請け構造になっている。建設工事の二次受けをしている解体業者は、取ってきた仕事を、ゴミ代も解体費に含めて元請けに請求する。解体業者は請け負った仕事の一部としてゴミ処理を行うに過ぎない。当然、ゴミ処理代は安ければ安いほど良い。その結果が不法投棄などにつながっていたのだ。近年では不法投棄を行う悪質業者は厳しく取り締まられるようになった。

 

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田中 洋

田中 洋

中央大学ビジネススクール(大学院戦略経営研究科)教授

1951年名古屋市生まれ。京都大学博士(経済学)。日本マーケティング学会会長。マーケティング論・ブランド論・広告論・国際マーケティング論専攻。(株)電通でマーケティングディレクターとして21年間実務を経験して後、法政大学経営学部教授、コロンビア大学研究員などを経て、2008年より現職。社会人のためのビジネススクールでマーケティングとブランドの教鞭を執る。以下のグローバル企業への戦略アドバイスや社内講師を行っている。GE、マイクロソフト、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、メルセデスベンツ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、資生堂、味の素、日清食品、ソニー、日立製作所、パナソニック、ニコン、日本銀行など。

主著として『ブランド戦略論』(2017)、『消費者行動論』(2015)、『マーケティングキーワードベスト50』(2014)、『ブランド戦略全書』(編著、2014)、『ブランド戦略・ケースブック』(編著、2012)、『マーケティング・リサーチ入門』(共著、2010)、『消費者行動論体系』(2008)、『企業を高めるブランド戦略』(2002)など。日本広告学会賞(3回)、中央大学学術研究奨励賞、日本マーケティング学会ベストペーパー賞、東京広告協会白川忍賞などを受賞。
(編集:株式会社ネクストアド)

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