日本の報道を見ていると、世界のあちらこちらでイスラム教のシーア派とスンニ派が争い合っている印象を受ける。
しかしイスラム教徒に聞いてみていると、相手がシーア派であるかスンニ派であるかは大した意味を持たないし、互いに「あなたはシーア派ですか? スンニ派ですか?」などと尋ねることもないという。
今回はイスラム教の基礎知識を通してシーア派とスンニ派について考えてみたい。
最後の預言者によるイスラム教の成立
紀元前の時代、シリアやメソポタミアで暮らしていた遊牧民族ヘブライ人はただひとつの神を信じていた。そして神が最初に創った人間=アダムや、方舟(はこぶね)を造って大洪水を逃れたノア、海を割ってヘブライ人をエジプトから脱出させたモーセらの物語を伝えて『旧約聖書』にまとめた。
アダムやノア、モーセのように神から啓示(真理の開示)を受けた人間を「預言者」と呼ぶ。
そして610年、メッカ郊外で瞑想を行っていたムハンマドのもとに天使ジブリルが現れて啓示を与えた。このときジブリルはアラビア語の会話によって神の意思を伝えたという。これを文書化したのが『コーラン』だ。
イスラム教ではアダムやノア、モーセはもちろん、キリスト教のイエスをも預言者として認めている。そしてムハンマドを「最後の預言者」とすることでこれ以後の預言者の台頭を防ぎ、『コーラン』の内容を「神の言葉」とすることで人間の言葉を集めた他の聖典より上であるという格付けを可能にした。イスラム教はブランディングにおいてきわめて戦略的だった。
シーア派とスンニ派の誕生
632年にムハンマドが亡くなると後継者争いが起こるが、話し合いを経て「カリフ」と呼ばれる預言者の代理人が指名された。
問題は第3代カリフ、ウスマーンが暗殺されたときに表面化する。… 続きを読む