2001年にタリバンがバーミヤン渓谷の仏像を爆破して以来、数多くの世界遺産がイスラム過激派によって破壊されている。2015年5月20日にはISIL(いわゆるイスラム国)がシリアの世界遺産「パルミラの遺跡」を制圧し、いまこの瞬間にも破壊されるのではないかと懸念が広がっている。
なぜイスラム過激派は遺跡を破壊するのだろう? 今回はその狙いを追究してみたい。
21世紀に入って繰り返される世界遺産の破壊
2001年2月26日、タリバンはイスラム教の偶像崇拝禁止の教えに反しているとして世界遺産「バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群」の磨崖仏(まがいぶつ)の破壊を宣言。国連総会は全会一致で中止決議を採択したが、3月12日に2体の仏像が爆破され、その様子は世界中に配信された。

2012年4月、トゥアレグ族の国家樹立を目指すMNLA(アザワド解放民族運動)とイスラム過激派組織アンサル・ディーンがマリ北部を制圧してアザワド国の独立を宣言。アンサル・ディーンは世界遺産「トンブクトゥ」や「アスキア墳墓」に侵入してその一部を破壊した。
2012年9月、シリアの世界遺産「古都アレッポ」でシリア政府軍と反政府軍による戦闘が起こり、古代から続くスーク(市場)の多くが焼失。2013年4月には世界最古級のモスク(イスラム教の礼拝所)のひとつであるグレートモスクのミナレット(塔)が砲撃を受けて倒壊した。

2015年2月、ISILがイラクのモスルで20以上のモスクを攻撃し、博物館を襲撃して多くの彫刻を破壊した。3月5日には世界遺産暫定リスト記載の古代都市ニムルドをブルドーザーでなぎ倒し、3月7日には世界遺産「ハトラ」の神像の数々を破壊した。さらに5月20日にはシリアの「パルミラの遺跡」を制圧し、数百人を虐殺したと伝えられている。
内戦で遺跡を破壊するのは、攻撃しにくい遺跡に人々が逃げ込むことや、敵の象徴的な建物を破壊して優位をアピールするためだ。しかしイスラム過激派の場合、しばしば「偶像崇拝の禁止」を掲げて破壊を行っている。偶像崇拝とはいったいどんなものなのだろう?
なぜ偶像崇拝が禁止されるのか?
実はイスラム教の聖典『コーラン』には、偶像崇拝を行う異教徒への言及はあっても、明確に偶像崇拝を禁じる言葉は存在しない。偶像崇拝の禁止が明文化されているのはユダヤ教の聖典『旧約聖書』だ。
「汝、己のためにいずれの偶像も彫るべからず。上は天にあるもの、下は地にあるもの、また地の下の水の中にあるもの、いずれの形をも模るべからず」(『旧約聖書』出エジプト記20章4節より)
キリスト教やイスラム教はユダヤ教から派生した宗教で、『旧約聖書』も聖典のひとつ。そのため偶像崇拝の禁止も引き継がれている。
『旧約聖書』が偶像崇拝を禁じるのは、… 続きを読む