日本ではアベノミクスで円安が進み、2011年の1$=75円台から現在の120円弱まで下落した。海外にいる私としては、円安になるとあらゆる商品やサービスの値段が跳ね上がるのでなんとも歓迎しにくいところだ。
ところで、不思議に思わないだろうか?
日本は自国で円を発行しているから日本銀行(日銀)が金利を変えたり国債を買い取ったりすることで、円の供給量やインフレ率などをコントロールしようとしている。いわゆる金融政策だ。でも、ユーロのように統一通貨を使っている国はいったいどうしているのか? ギリシャは日本より深刻な財政危機にあるはずだが、ユーロ安に誘導しなくて大丈夫なのだろうか?
今回はこうした金融の基礎知識とギリシャの財政問題に焦点を当てたい。
降って湧いたギリシャの財政危機
1990年代から欧州でユーロへの通貨統合が進められ、2002年に紙幣と貨幣の使用が開始された。ギリシャも2001年から参加しており、自国通貨ドラクマは廃止されてユーロへ移行した。
通貨統合に参加するためには物価上昇率や長期金利などの条件があり、財政赤字に関してはGDP比3%以下と規定されている。ギリシャはこれをクリアしているという前提で参加していたが、2009年に政権交代が起こると前政権の粉飾が明らかになる。
新政権が発表した数値は12.5%。ギリシャに対する不信から国債価格が暴落し、資金調達が進まずデフォルト(債務不履行)の危機に陥った。
2008年に起こったリーマンショック以降、欧州各国の政府や金融機関は高リスクの金融商品を避け、より安全な資産として国債の購入を進めていた。ギリシャ国債はユーロ建てだし、EU(欧州連合)の後ろ盾もあるということで大量に購入されていた。
ギリシャがデフォルトした場合、国債は紙屑となり、財政難に陥っているポルトガルやスペインといった国々が連鎖破綻して、それらの国の国債を持つさらに別の国々が……といった具合に被害が世界に波及する可能性がある。そこで2010年にIMF(国際通貨基金)は第1次金融支援を決定し、ギリシャ財政の健全化を進めた。
アベノミクスの狙い、ギリシャとの相違点
日本もギリシャ同様、財政状態はよろしくない。財政赤字のGDP比は2009年以降7.6~9.2%と、ユーロ導入の基準値である3%に遠く及ばない。そこでアベノミクスの第一の矢である「大胆な金融政策」では、円の価値を下げるインフレ誘導で財政再建を進めようとしている。
日銀が主に行っているのは公開市場操作と呼ばれるものだ。日銀が一般の銀行から国債を買うことで、銀行はお金が余った状態になって金利を引き下げる。金利が低くなるので企業は設備投資などのために銀行から借金をして、市中により多くのお金が出回る。人々がお金をたくさん持つようになるので投資が増えて景気が上昇していく。
そしてお金がたくさんあるのでその価値が下がり、代わりに物価と外国の通貨の価値が上がる。物価が少しずつ上がることで経済は拡大し、外貨が上昇することで外国製品が値上がりして自国産業が振興する(1$=100円が1$=200円になると、100円だった1$の商品が200円に値上がりするため)。この通りにならないことも多いのだが、これが一応のシナリオだ。
2001年に起こったアルゼンチンのデフォルトでも、通貨ペソが暴落した結果、借金が減ったうえに自国産業が回復した(借金が減るのは、キャベツ1個=100円だったものがインフレが起きて1,000万円になれば、1,000万円の借金がキャベツ1個分に圧縮されることによる)。
ところがギリシャの場合、… 続きを読む… 続きを読む