本連載では、これまでに、時系列分析やアーラン式などを用いたコールセンターの業務量やエージェント数(要員数)の算出方法について解説してきました。
これら世界標準の科学的な手法により導いた業務量や要員数が、論理的には“最も正しい”ことに疑いの余地はありません。
しかし現実には、そうして導いた数値がそのまま使われることは少なく、さまざまな“調整”を経て、予測業務量や要員計画などが確定、承認されるのが通例です。
今回は、この“調整”作業である「トレードオフ」の考え方やプロセスについて解説します。
トレードオフとはなにか
コールセンターの周囲には、さまざまなステークホルダー(利害関係者)が存在します。その代表格が、「顧客」「企業」「エージェント」の三者であり、それぞれがコールセンターに対して三者三様の要求をしてきます。
「顧客」は、コールセンターに手厚いサービスと質の高い顧客経験を望みます。「企業」は、利益の最大化を図るために、リソースの効率的な利用によるコストの最小化を要求します。「エージェント」は、コールセンターでの働き甲斐や働きやすさを求めます。
これらの要求には相反するものもありますが、コールセンターは、それらにバランスよく応えなければなりません。
そのために、エージェント数を増やしたり減らしたりすることによって、サービス、効率性、働きやすさなど、各ステークホルダーの異なる要求を調整し折り合いをつけるのが「トレードオフ」の作業です。
以下では、サービス、効率性、コスト、利益、スケールメリットの5つの視点から、表1の例を使ってエージェント数とのトレードオフを検証します。
表1は、1時間あたり500コール、平均処理時間360秒、サービスレベル目標80%/20秒 等の条件におけるエージェント数と、サービス、効率性、コスト、利益に関する指標との関係を表しています。表の中央の黒地(白抜き数字)の行が、目標のサービスレベル(20秒以内に80%以上応答)を達成するのに必要なエージェント数と、各指標の予測値です。
表1:トレードオフ・シミュレーション

サービスとのトレードオフ
「顧客」に対するサービスの観点から明確に言えるのが、「エージェント数を増やせばサービスが向上し、エージェント数を減らせばサービスは低下する」ということです。
これを、サービスレベル、放棄率、平均応答時間の3つのサービス指標から検証します。
目標のサービスレベル(80%/20秒)を達成するには57人のベース・エージェントが必要で、その場合のサービスレベルは83.3%、放棄率は2.3%、平均応答時間は13秒となることが見て取れます。
もし予算に余裕があり、エージェントを1人増やすことができるならば、サービスレベルは83.3%から87.5%に上昇し、放棄率は1%減って1.3%に、平均応答時間は4秒短縮して9秒にそれぞれ向上することが期待できます。
一方、エージェントを1名減らし56名にすると、サービスレベルは… 続きを読む