コール数や平均処理時間など業務量の予測は、コールセンターのすべての活動の起点となる、極めて重要なタスクです。それにもかかわらず、日本ではその手法や方法論が確立されておらず、多くのセンターが“勘と経験”に頼った自己流の方法で済ませているという現実があります。
もちろんそれで良いはずがありません。統計学的手法を用いた科学的な方法による正確な予測をおこない、質の高いセンター運営に努める必要があることは言うまでもありません。
統計学的な予測手法にはさまざまなものがありますが、現在、世界の先進のコールセンターで使われている代表的な手法が、「回帰分析」と「統計関数」そして「時系列分析」です。
いずれも「ヒストリカルデータ」(過去の実績)を用いて統計的に将来を予測し、それに「ビジネスドライバー」(将来の変動要因)を加味して精度の高い予測業務量を算出します(ヒストリカルデータとビジネスドライバーについては前回の記事で詳述しています)。
この記事では「コール数」をメインに解説しますが、その手法は、電話に限らず、メール、チャット、SNSなど、異なるチャネルや平均処理時間などの予測にも等しく使えます。
「回帰分析」と「統計関数」
「回帰分析」とは、例えば通信販売の受注センターであれば、「カタログ発行部数」や「通販会員数」など、コール数と相関関係の強い(コール数の増減に強い影響がある)データを用いて予測する手法です。
回帰分析を教科書通りにおこなうには統計学の専門的な知識が必要ですが、Excelに備わる「回帰分析」ツールと「統計関数」を利用することで、誰でも容易に実践できます。
以下では、3つのステップからなる、その方法について、通販受注センターの例を使って説明します。
(1) コール数に相関関係がありそうなデータを選択する:通販の受注センターのコール数に相関関係がありそうな要因として「カタログ発行部数」と「通販会員数」を選択し、そのヒストリカルデータ(表1)を用意します。
表1:通販受注センターのコール数予測に使用するヒストリカルデータ

(2) 相関性を確認する:(1)で選択した「カタログ発行部数」と「通販会員数」が、本当にコール数と相関関係があるのか、その度合い(影響度や強さ)をExcelの「回帰分析」ツールを使って確認します。
-「回帰分析」ツールは、Excelの「データ」タブ内の「分析」グループにある「データ分析」をクリックすると表示されます(※「データ分析」が表示されていない場合は、マイクロソフトのサポートページを参照)。
-表示された「回帰分析」ツールに、表1のヒストリカルデータを、こちらの解説ページにしたがって入力し実行します。
-「回帰分析」の結果が表2のように出力されます。この表を理解するには専門知識が必要ですが、相関性は表2の下部にある「t値」を確認するだけです。
-「t値」は、「カタログ発行部数」と「通販会員数」のコール数に対する影響度の大きさをあらわし、その値(絶対値)が「2」より大きければコール数に強い影響があり、予測に使えるデータであることを示します。表2の例では、両者とも「2」を上回っているので、コール数の予測に使えることが確認されました。
表2:Excelの回帰分析の出力結果

(3) 「統計関数」を使ってコール数を予測する:「カタログ発行部数」と「通販会員数」が使えることが確認できたので、この2つのデータ用いて、Excelの「統計関数」により2019年2月のコール数を予測します。
「統計関数」は、コール数に相関関係のある要因の数によって、以下の3つを使い分けます。
– FORECAST関数: 相関関係のある要因が1つ(ここでは「カタログ発行部数」)の場合
– TREND関数: 相関関係のある要因が複数(ここでは「カタログ発行部数」と「通販会員数」)の場合
– GROWTH関数: 相関関係のある要因がなく(使わず)、コール数のヒストリカルデータのみを使って予測する場合
いずれの関数も、Excelの「関数の挿入」のダイアログ内のリストから選択し、こちらの解説ページ(FORECAST関数、TREND関数、GROWTH関数)にしたがって、表1のヒストリカルデータの必要な数値を入力し実行します。表3がその結果となります。
統計関数は、以上のように簡便かつ迅速にコール数を予測できる、とてもシンプルな手法です。その手軽さから、日常のセンター運営の中で頻繁に生じる、必ずしも厳密な正確さを求めない“ちょっとした”予測作業に適しています。
表3 Excelの統計関数によるコール数の予測

コール数予測の大本命――「時系列分析」
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