2018.07.09 Mon

人間は合理的に行動するとは限らない

人間は、必ずしも合理的な選択肢を選ぶ生き物ではありません。ときには心理的な影響で、不合理な選択肢を選んでしまうことがあります。こうした人間の行動を、経済学的、心理学的な面から分析する学問が「行動経済学」です。

  行動経済学が活躍する場面の1つが、商品やサービスの価格設定です。新しい商品やサービスを市場に出す時、どのような値段設定にするかは大きな問題です。ですが、「いずれ需要と供給のバランスによって価格が調整されるから、何円にしておいても良い」などと考えてはいけません。

  もともと伝統的な経済学では、商品やサービスの価格というものは、市場における需要と供給のバランスで決まると考えられてきました。「買いたい」という消費者側の希望と、「売りたい」という企業側の希望が一致するよう、うまく価格が調整されるという考え方です。

  行動経済学では、必ずしも市場メカニズムはこのように合理的には働いていないという立場をとっています。むしろ、人間の意思決定は不合理なものであり、心理的な側面に大きく影響されるというのが、行動心理学の考え方なのです。

 今回は、この行動経済学を用いた価格設定の方法を、ビジネス書『予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)をもとに説明します。

 

「誰も選ばない、魅力がない商品」に意味がある

 レストランで料理を注文する時に、一番高いメニューを選んだ回数と、二番目に高いメニューを選んだ回数を比べた場合、おそらく後者の方が多いはずです。本書の著者は、こうした行動が起こる理由として、人が物を買う時、その値段を絶対的に評価しているのではなく、相対的に評価していることを挙げています。

  本書で紹介されている、経済情報誌「エコノミスト」の価格設定方法について見てみましょう。本書では、Web版の価格を新たに設定する際、消費者がどのような選択肢をとるかについての行動経済学的な実験例が紹介されています。その実験とは、3種類の購読メニューを用意し、経営大学院の大学院生100人にアンケートをとり、どれを購読するか選ばせるというものです。メニューは以下になります。

 A.Web 版のみの購読59ドル
 B.印刷版のみの購読125ドル
 C.印刷版と Web 版のセット購読125ドル

「B.印刷版のみの購読」と「C.印刷版と Web 版のセット購読」は同じ値段となっています。つまり、後者のセット購読の方がお得です。実際に大学院生が選んだところ、以下のような結果となりました。

 A.Web 版のみの購読59ドル ⇒ 16人
 B.印刷版のみの購読125ドル ⇒ 0人
 C.印刷版と Web 版のセット購読125ドル ⇒ 84人

 印刷版のみが0人というのは、当然の結果といえます。BとCを比較した場合、Cは印刷版もWeb版も読めるのに、BはWeb版が見られません。にも関わらず、BとCは同額です。これだけを見た場合、Bは「誰も選ばない高い商品」であり、この中で最も魅力がありません。

  しかし、だからといって、Bの選択肢に意味がないわけではありません。むしろ、このBがあるからこそ、Cの魅力が引き立つのです。

  アンケートではこれとは別に、選択肢をAとCの2つにしぼってアンケートをとったところ、少し違った結果になりました。

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景山 悟

景山 悟

経済ライター

起業、経営プロジェクト管理、技術経営などについて執筆活動、講義活動を展開中。

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