企業にとって、経営戦略や商品戦略は道標のようなものです。自分たちはどう進むべきか、有効な戦略を立て遂行していくことが、企業の成功のカギとなります。

 しかし、市場環境が変動する中で、いつまでも同じ戦略が通用するとは限りません。ロンドン・ビジネススクール准教授のFreek Vermeulen氏らの研究論文「Stop Doubling Down on Your Failing Strategy」によると、業界のリーダー企業の失敗の多くが、かつて有効だった戦略に、旬が過ぎた後も固執してしまう「エスカレーション・オブ・コミットメント」と呼ばれる心理現象が原因だとされています。

 なぜ企業は、賞味期限切れの戦略に惑わされてしまうのでしょうか? Freek氏らの論文から、その原因と対策を読み解いていきます。

 

なぜ圧倒的業界リーダーだったHMVやノキアが沈んだか

 業界リーダーの転落例としてFreek氏が挙げているのが、イギリスのレコード販売会社HMVと、フィンランドの携帯電話会社ノキアです。この2つの企業は少し前まで業界トップを走る企業として華々しく活躍していましたが。2013年にHMVは経営破綻し、ノキアもスマートフォン市場で一人負けの状態になってしまいました。

 なぜHMVとノキアが沈んだか、その理由は取るべき戦略を誤ったからです。

 HMVは音楽ダウンロードやオンライン配信を一過性の流行と軽視し、店舗でのCD販売という自社のビジネスモデルにこだわり続けた結果、デジタル時代の音楽ビジネスに完全に乗り遅れてしまいました。ノキアもiOSやアンドロイドに対抗する自社OSの開発にずるずると投資を続けたために、スマートフォン市場でサムスンなどに大敗する結果となりました。

 2社ともに市場環境が変わっているにもかかわらず、一度成功を収めた自社の戦略に固執した結果、企業生命に関わる取り返しのつかない大失敗をしてしまったのです。

 

進捗率90%の状況でプロジェクトを止められるか

 業界のリーダーになるほど優れた企業が、なぜ現在の戦略が既に賞味期限切れであることに気づけないのでしょうか。これを説明するために、Freek氏らは有名な心理的バイアスの実験を紹介しています。

 実験では参加者を2つのグループにわけ、Aグループには「自社プロジェクトはまだ始まっておらず、競合は既に優れた戦闘機を市場に投入済み」という情報を与えます。そしてもう片方のBグループには「自社プロジェクトの進捗率は90%で、競合は既に優れた戦闘機を市場に投入済み」という情報を与えた上で、「新たな戦闘機の開発に100万ドルを投資するか投資しないか」という質問を投げかけました。

 すると、Aグループでは、… 続きを読む

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前野 智子

前野 智子

フリーライター。大企業・ベンチャー双方での就業経験や海外でのビジネス経験を活かし、ビジネス関連記事やインタビュー記事等の執筆を手掛ける。

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