「キャリア・アンカー」という言葉をご存知だろうか。これは、仕事のキャリアを選択するにあたって、自分が最も大切だと考える価値観や要求のことである。
「アンカー」とは船の「いかり」を指す。すなわち、仕事において「どうしてもこれだけはあきらめたくない」という極めて重要な領域がキャリア・アンカーである。キャリア・アンカーを活用すれば、優秀な人材の流出やパフォーマンスの低下を抑止して、組織に欠かせない人材を確保し続けることも可能となる。
本連載では、効果的なキャリア・アンカーの活用法を説明する。
キャリア・アンカーを知らない会社は組織が回らない
マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院の名誉教授、エドガー・ H・ シャイン博士は、人間は30代前後になると、仕事を経験する過程で譲れないこと、自分だけの価値観があると気付くことを発見した(『キャリア・アンカー I ─セルフ・アセスメント』白桃書房、2009年)。この価値観がキャリア・アンカーだ。
つまり、社員が自分のキャリア・アンカーがどのようなものかを明確にし、会社が働き手のキャリア・アンカーを理解することで、双方にとってより良い職場環境が作れる、というわけだ。反対に、キャリア・アンカーを無視した採用や配置をすると、会社は不幸な結果に陥ってしまうかもしれない。
組織をうまく回すには、キャリア・アンカーに関する知識を深め、社員の「アンカー」を見極めて、適材を適所に配置することが重要になる。
あなたはどれ?キャリア・アンカー8つのタイプ
シャイン博士の研究によって、人々のもつキャリア・アンカーには次の8つのタイプがあることが明らかにされた。その8つとは、【1】専門・職能別コンピタンス、【2】全般管理コンピタンス、【3】自律・独立、【4】保障・安定、【5】起業家的創造性、【6】奉仕・社会貢献、【7】純粋な挑戦、【8】生活様式である。以下、長くなるが、その全8タイプの特徴を紹介する。
【1】専門・職能別コンピタンス型は、自分が取り組んでいる領域において、自分の技能を応用し、技能を常に高いレベルに向上し続ける機会が重要だと考えており、専門で挑戦し続けることに大きな喜びを感じる人が該当する。
【2】の全般管理コンピタンス型は、組織の中で高い地位につき、… 続きを読む