上司にとって、指示にスムーズに従い、かつ自らの意志で積極的に業務にあたる部下の存在ほど、心強いものはありません。とはいえ、そこまで都合の良い部下が揃っているケースは稀でしょう。実際には、上司の指示に従わず、かつ自らの意思も持ち合わせていない“残念な部下”の方が多いはずです。

 完全に理想的な部下は存在しないかもしれませんが、「期待」をうまく伝えることで、部下をその理想へと近づけていくことは可能です。

 部下自身が思わず行動したいという気持ちになるような、“動かす”コツを紹介します。

 

人間は期待されるとそれに応えたくなる

 部下に対して指示を出し、部下も「わかりました」と返答したものの、一向に行動を起こさず、改善に取り組まないことはよくあります。それは部下が、心の中で「拒否」の姿勢をとってしまっている可能性があります。

 部下が上司からの指示に対して、主体的に取り組むようにするためには、「ピグマリオン効果」の活用が有効です。

 ピグマリオン効果とは、もともとは教育心理学の分野で活用されてきたもので、教師が生徒に期待をしているほど、成績が向上するというものです。つまり、期待を込めて仕事を任せることで、反抗心が緩和され、主体的な行動の促進にもつながります。

 反対に、部下が「期待をされていない」と感じると、成績やパフォーマンスが落ちる傾向にあります。これを心理学では「ゴーレム効果」といいます。もし部下が口先だけで返事をして実行に移さなかったり、行動が遅かったりするのなら、ゴーレム効果が発動されている可能性が濃厚です。速やかに期待を伝える行動をとり、対処を試みる必要性があります。

 

期待は言葉だけで伝わらない

 ピグマリオン効果を高めるためには「期待しているから」「○○さんならきっとできるから」と、言葉で表現するだけでは不十分です。

 というのも、人間は言語、非言語の両面に影響される生き物だからです。一説によれば、話の内容や言葉などの言語情報は、人間の行動のわずか7%しか影響されず、逆に言い方や声のトーン、見た目などの非言語情報が93%の影響を与えるといわれています。(メラビアンの法則)。

 たとえ言葉で期待を示していたとしても、態度で期待が示されていなければ、ピグマリオン効果は発揮しません。むしろ逆効果になる可能性さえあります。口調や声の大きさなど、非言語情報を活用して、期待を伝える必要があります。

 

大きすぎる声と腕組みに要注意

 それでは、具体的には部下に対してどのように期待を伝えれば良いのでしょうか?まず言語面では、どの側面に期待をしているのか、事実を踏まえて伝えることが重要です。

 たとえば提出資料のミスがなく、無遅刻無欠席を貫いている部下ならば「ミスができないように何度も確認をする真面目さとリスクマネジメント能力があるからこそ、○○さんには期待している」と伝えることで、部下は良い評価点と期待されている点が自覚できます。

 非言語の面では、声のトーンや表情、伝える際の態度などの視覚的、聴覚的、感覚的にも相手が期待されていると感じ取れるように発信することがとても重要です。

 たとえば、声が大きすぎたり、腕組みをしていたり、眉をひそめていたりすると、相手に威圧感を与え、安心してメッセージ性を受け取ってもらえない可能性があります。伝える際には腕組みはせずに、聞き取りやすい適切な声の大きさで伝えるとよいです。目線を合わせ、穏やかな表情で伝えると、より一層受け取りやすくなります。

 

3つのポイントをおさえた効果抜群の褒め方とは

 期待を伝えるためには「褒める」ことが重要です。褒められて嫌な気持ちが湧く人はいません。お世辞とわかりつつも顔がほころび、嬉しい気持ちになるものです。

 その「褒める」という行為も、「外見」「内面」「行動」という3つのポイントをおさえるだけで、効力が倍増します。

 外見は髪型や顔立ち、肌のコンディションや体形、服装や身に着けている小物など、視覚的に捉えることができるものを指します。内面は目で見ることができない、優しさや真面目さ、明るさや親しみやすさといった内的な部分を指します。行動は具体的に人の倍のスピードで効率よく顧客対応ができたり、辛抱強くクレーム応対にも落ち着いて対処できたりするなどの行動面を指します。

 たとえば、オシャレ志向が強く外見を褒めてほしい人に対して、内面ばかり褒めても、効果が抜群とはいいがたいものです。

 もちろん、どの面を褒められた方がより嬉しいかは個人差があります。そのツボを知る方法として、日頃の言動で観察するとよいです。

 トレンドに敏感で小物やファッションに気遣っていたり、社内の髪型や使用する化粧品の変化に敏感な人は、外見に重点を置いています。また、他者の感情に敏感であったり、調和や関係性を大事にしていたりするのなら、内面を重視するタイプの人です。作業効率や成果を重視し、メンバーに対して感謝や叱責が多かったりする人は、行動面に重点を置いています。

 見分けがつきにくい場合には、3点すべてをまんべんなく褒め、一番リアクションが良いのかを見て判断するのも一つの手です。

 相手に合わせて褒め方を変え「期待」を伝えることで、その最大限の効果が発揮されます。部下や後輩のモチベーションを高めたいとき、試してみることをお勧めします。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年5月25日)のものです。

田倉 怜美

田倉 怜美

Well-being代表、心理カウンセラー

いじめ、セクハラ、パワハラの三重苦を経験し、保健室登校生のサポート経験から2005年よりカウンセラーを志す。2012年にカウンセラーデビュー。心理学講師、ライターと活躍の幅を広め、2016年に独立。かわさきFMラジオ、TBSテレビ「好きか嫌いか言う時間」に出演、朝日新聞への掲載。2017年「こころの予防医学」出版。
心理歴12年の知識と経験をもとに仕事や実生活に活かせる心理ライターとしても活動中。主な資格:日本心理学会「認定心理士」、日本健康心理学会「認定健康心理士」他 ブログ:http://ameblo.jp/counselor-satomi/

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