ことわざで「若い時の苦労は買ってでもしろ」ともいわれるように、苦労や失敗を踏まなければ成功できないというイメージがある。
しかし、ビル・ゲイツはマイクロソフトを立ち上げてから12年間で10億ドルの資産を手に入れた。ヤフーは創業から成功まで、たった4年間しかかかっていない。確かに失敗が成功の助けになることもあるだろうが、失敗などせずとも、とんでもないスピードで成功してしまうケースもあるのだ。
こうした短時間で成功する人たちの“ショートカット”術を紹介したビジネス書が、人気となっている。講談社から刊行されている「時間をかけずに成功する人 コツコツやっても伸びない人 SMART CUTS」(スノウ・シェーン著/斎藤栄一郎訳)である。この本によれば、短期間で成功した人は、ラテラルシンキング(水平思考)によって、効率的なショートカットを実践しているという。
発想や着眼点の変換によって生み出された効率的なショートカット術を、本書では「スマートカット」と呼んでいる。今回は、本書で紹介されているスマートカットの実例を紹介しよう。
法を犯したり道徳観を無視するのはスマートカットではない
本文に入る前に、そもそも「スマートカット」とは、単純な「ショートカット」とはまったく別ものであるという前提を確認したい。単純なショートカットは、時として道徳観の欠如や節操のなさにつながる。これではたとえ成功しても、一時的なものになる可能性が高く、時には法を犯して捕まることもある。
一方でスマートカットは、言わば誠実さを保ったショートカットである。法に準拠し、正々堂々と“ショートカット”するのである。これならば長期的にもリスクを負うことはない。
スマートカットには、主に3種類に分けることができるという。その3つとは、「近道をさがす」、「少ない労力で大きく動かす」、「勢いにのって上がる」である。以下、順に紹介する。
任天堂が実践した「近道を探す」というスマートカット
「近道をさがす」スマートカットの実例は、日本にある。家庭用ゲーム機で大成功を収めた「任天堂」の影にも、スマートカットが実践されている。
任天堂は元々小さな花札メーカーだったが、業務用ゲーム機なども販売していた。しかし、1980年から発売した携帯型ゲーム機「ゲームウォッチ」が大当たり。それを契機に「ファミリーコンピュータ」のようなゲーム機も手がけるようになり、家庭用ゲーム機市場のグローバル企業となった。
ゲームウォッチは、任天堂の社員が新幹線で暇つぶしに電卓をたたいている人を見て、液晶を使った携帯ゲーム機を思いつき、生まれたという。液晶と業務用ゲーム機の組み合わせから、着眼点を変えることで新しい商品を発想したのだ。
「近道を探す」スマートカットは、既存のものや方法を観察し、着眼点や発想を転換させることで、効率よく成功を導き出す“工夫”なのだ。
チェ・ゲバラのキューバ革命の裏に「スマートカット」あり
キューバ革命のゲリラ指導者として知られるチェ・ゲバラは、「少ない労力で大きく動かす」というスマートカットを実践した人物である。
彼はカストロ議長らとともに、当時の政府軍に対抗したが、当初の支持者は300人ほど。政府軍の42,000人に対して、革命を成功させるほどの力はなかった。
ある時、ゲバラの手下がキャンプを訪れ、こんな提案をした。… 続きを読む