機械文明は、私たちの生活を便利かつ豊かにしてきました。ところが、これらの発明や開発のきっかけは、実は「不便」を感じたり「失敗」をしたりするところから始まっているのです。今回は、「不便」や「失敗」から進歩してきた車の歴史を例に挙げ、私たちが「失敗」から何を学んでいくべきかをお伝えします。
昔の輸入車にはキーが2つあった
「不便」が技術を発展させた例としては、車のキーがあります。
1984年、私が初めて自分専用の車として、クライスラー・プリムスのハッチバックに乗ったときのことです。アメリカに渡ったときにあてがわれたレンタカーでしたが、そのとき渡されたキーは2つありました。それは、エンジン用とドア開閉用というそれぞれが異なる用途だった上に、向きを間違えるとうまく鍵穴に挿さらないという代物でした。いちいち、どちらが何のキーなのかということを確認し、挿す時の方向に注意しなければいけないのは不便なものでした。
その1ヶ月後に、1975年製、ホンダ・シビックを、1,300ドルで買いました。古い車になったものの、ホンダの「CVCCエンジン」がアメリカに進出した記念碑的シビックで、キーは1本だけでした。挿すときに向きを気にすることもなくなったのです。
このシビックを2年間乗り回してお金をため、新車に乗り換えたころ、アメ車のキーも1本が標準になり、点対称の作りになり向きに注意する必要もなくなっていました。
ビッグ3の一角を担い、中でも高級感あふれるクライスラーの設計陣が、市場の競合製品に学び、悔しい思いをしながらも、消費者のニーズに応えたことになります。この例は、「不便」が技術を進歩させたものだといえるでしょう。
車が突然加速せず、衝突してもエアバッグが反応しなくなる
不便さが技術の発展につながることもあれば、新しい技術が失敗につながることもあります。
代表的なものは、2014年2月に始まり、これまでに小型車3千万台のリコールとなった米国ゼネラルモーターズ(GM)のイグニションスイッチ事件です。
その原因は、走行ポジション(ON)の状態にあるキーが、走行中に突然アクセサリーポジション(ACC、カーステレオなど車の電装品を動かすための状態)に戻ってしまうというものでした。走行中、エンジンは惰性で回転を続けますが、アクセルペダルを踏んでも加速はせず、衝突してもエアバッグが作動しないという危険な状態となります。この不具合による死亡者は100名を越えました。
キーが戻ってしまう理由は、… 続きを読む