1月2日と3日に行われた第93回箱根駅伝で、青山学院大学の陸上部が優勝しました。大会3連覇に加え、大学駅伝3冠(出雲全日本大学選抜駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝)を達成するという偉業を成し遂げました。
昭和のスポ根マンガの選手指導といえば、汗、涙、根性で固められた精神論重視というイメージがあります。しかし現在はプロだけでなく、学生スポーツにおいても心理学を取り入れた指導法が定着しています。その中でも青山学院大学の原監督が取り入れているものは、選手の心理を重視した“アスリートファースト”という考えで話題となりました。
原監督の指導は、挫折などの苦い経験のある選手を蘇らせるために、選手の自主性や自信回復を重視したものです。それは心理学に照らし合わせると、とても理にかなったものだったのです。そのテクニックは、ビジネスシーンでも活用できます。
「乗せる」声掛けで実力以上の能力を発揮
箱根駅伝では、原監督が第3区を走った秋山雄飛選手に対し「湘南の神になれ」と声をかけたことが話題になりました。それを聞いた秋山選手は、俄然やる気を出して、区間1位タイムの走りを披露。順位も2位から1位に上がり、その勢いで往路の優勝をつかみ取りました。
原監督は秋山選手に対し、1位に追いつけそうなタイミングで声掛けを行いました。監督はこの声掛けを「乗せる」と表現していますが、これを心理学では「条件付け」や「動機付け」と呼ばれるものです。人間は実現の可能性がある目標を目の前にすると、その目標を達成させるために一生懸命に頑張る性質があります。
これは携帯ゲームアプリの「ポケモンGO」でも同じことがいえます。レアなモンスターを捕まえるときの現象と同じです。捕まえた瞬間、今までの苦労が報われたような快感を味わうことになり、そしてその快感が忘れられずに、レアなモンスターを求めて今まで歩いたことがないような長い距離でも歩いてしまうのです。
こうした激励は、原監督に始まったことではありません。たとえば、元日本海軍元帥の山本五十六の名言に、「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は育たず」というものがあります。ひとつの仕事を教えるのに、手本を示して、言葉や資料で教え、仕事をやらせて、褒めてやらないと、人は育たないというのです。
上官から褒められれば、部下は嬉しくて、実力以上のものを発揮します。同じように、企業においても上司から褒められれば、部下は頑張るようになるはずです。原監督の「乗せる」は、部下への動機付けにぜひ使いたい手法です。
強制すると人は反発する
また原監督は、選手を縛るのではなく、選手の自由に任せるとも言っています。人間は、縛られると反発したくなる心理を持っているため、これも有効な心理テクニックです。この現象を心理学では「心理的リアクタンス」と言います。
心理的リアクタンスとは、人が自分の自由を外部から脅かされた時に、「自由を回復しよう」とする心理が働くことを指します。心理学者のジャック・ブレームにより提唱されました。
たとえばAさんが、Bさんから高圧的な説得を受けたとします。この時Aさんは、自分の自由が迫害されたと感じ、その結果、… 続きを読む