なぜ、同じ業務をこなしても、成長できる人とできない人がいるのか? そして、両者を分ける「マインドセット」(思考態度)とは何か?
スタンフォード大学心理学教授のキャロル・S・ドゥエックによる書籍『マインドセット「やればできる!」の研究』(草思社)を元に、成功する/しない人の違いを知る本連載。第1回目では、成長できる人間か否かの違いは、自分の能力は固定的で変わらないと信じる「硬直マインドセット」の持ち主か、人間の基本的資質は努力しだいで伸ばすことができると信じる「しなやかマインドセット」の持ち主かの違いにあることを説明した。
今回は、テニス界のトップアスリートの事例から、この2つのマインドセットの違いについて理解を深めていく。
硬直マインドセットの持ち主で成功者がいるのはなぜか
人間は、さまざまな要素を併せ持つ生き物である。そのため、完全な「硬直マインドセット」の人がいるわけでも、完全な「しなやかマインドセット」の人がいるわけでもない。ほとんどの人が、両方のマインドセットを併せて持っている。
たとえば、硬直マインドセットの持ち主には、 “自分ができる人間であることをひけらかす”、“努力を嫌う”といった特徴があるが、一方で仕事熱心だったり、チャレンジ精神が旺盛だったり、実際に出世し成功している人もたくさんいる。これは、硬直マインドセットの人の中に、「自らの目標達成に必要ならば、努力はいとわない」が「それ以外の硬直マインドセットの特徴を持ち合わせている」場合があるからだ。
本書では、硬直マインドセットを持ったトップアスリートとして、往年の名テニスプレイヤー、ジョン・マッケンローが紹介されている。
マッケンローは1976~1992年にプロとして活躍したが、中でも1984年シーズンの活躍は特筆すべきものがある。全14大会に出場して、うち12大会で優勝。年間勝率96.5%という、驚異的な記録を残している。この勝率は、2005年のロジャー・フェデラー(95.3%)や、2015年のノバク・ジョコビッチ(93.2%)をも凌ぐ、現在も破られていない歴代1位の記録である。マッケンローは、人気・実力とも申し分のない、“天才”と称された偉大なプレイヤーであった。
しかし、生まれつきの才能に恵まれたアスリートは、いつも才能を褒められることで、苦労や努力をする必要がない。そのため、マインドセットが硬直した人間になりやすいのだという。
天才マッケンローも、自身の硬直マインドセットには苦戦した
天才の名を欲しいままにしたマッケンローであったが、審判に暴言を発する言動が頻繁にあったことから“悪童マッケンロー”とも呼ばれていた。実はマッケンロー自身、… 続きを読む