後世に大きな影響を与えた、偉大な書籍の一部を紹介していく本連載の3回目では、経営学者であるピーター・ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker)の『創造する経営者』(上田惇生訳,名著集6ダイヤモンド社,2007年 [原著1964年])を取り上げます。
『創造する経営者』は、ドラッカーが事業戦略について最初に記した本です。企業の内部からの発想をやめて、外部から事業を評価する手法を次々と提案しています。この外部から自社をみる視線が、ドラッカー最大の名言である「顧客は満足を買う」「事業とは顧客の創造である」を生み出しました。
今回は、この『創造する経営者』から、ドラッカーのマーケティング論を紹介します。
顧客は満足を買う。顧客満足のための手段(製品)を購入しているのではない
ドラッカーは本書にて、“事業”という言葉を明確に定義しています。
「事業とは、市場において知識という資源を経済価値に転換するプロセスである。事業の目的は、顧客の創造である。買わないことを選択できる第三者が、喜んで自らの購買力を交換してくれるものを供給することである」(同p.114)。
ドラッカーは顧客を強調します。企業の「内部からの評価基準」ではなく「外部からの評価基準」が、成果を出す事業戦略に結びつくのです。ドラッカーは、徹底して顧客からの視点を繰り出すことで、企業経営にありがちな思い込みを、なくそうとしています。
企業は、その製品やサービスで開発に苦労した部分が評価されているからこそ、売れていると考えがちです。しかし、ドラッカーは「顧客はメーカーの苦労には動かされない。顧客の関心は、この製品は自分のために何をしてくれるか、だけである」(同p.121)と断言しています。
ドラッカーは本書で「事業の何に対して対価が支払われているかについて、内部から知ることは容易ではない。自らを外部から見るための体系的な作業が必要となる」という問題提起をしました(同p.115)。この体系的な作業の出発点こそ「顧客は満足を買う」という事実です。顧客は、自分の満足に対価を支払っています。
大切なところなので、ドラッカーの名言でもう一度、確認します。
「企業が売っていると考えているものを顧客が買っていることは希である。(略)顧客は、満足を買っている。しかし誰も、顧客満足そのものを生産したり供給したりはできない。満足を得るための手段を作って引き渡せるにすぎない」(同p.118)。
つまり、製品やサービスは、顧客満足の手段にすぎないのです。
このドラッカーのマーケティング論は、フィリップ・コトラーなど多数の経営学者・マーケッターが体系化、精緻化、具体化していきました。特によく紹介されているのが、「顧客が欲しいのは穴である。ドリルではない」という例です。… 続きを読む