哲学者アドラーの思想が記された『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社刊、岸見一郎、古賀史健著)には、「全く話が通じないうえに、すぐ怒鳴りつけてくる上司」の話が登場する。
「話が通じない」「怒鳴る」。部下からすると、仕事の邪魔にしかならない“目の上のたんこぶ”のような上司。しかしアドラーは、実はこの典型的ともいえる“嫌な上司”を必要としているのは、ほかならぬ自分自身であるという。更に、こうした上司の下でも、自分の考え方を転換できれば、「仕事ができ、幸せになれる」と説いている。社員が皆そうなれば、会社も自ずと前向きな組織に変わっていくことができるのだ。その方法を理解するために、まずは、「嫌な上司」の本質から読み解いていこう。
どこにでもいる「理不尽な上司」
「ベンチがアホやから野球がでけへん」
これは”エモやん”の愛称で親しまれる野球解説者、江本孟紀氏による名ゼリフ。現役時代、自らを降板させた当時の阪神タイガースの首脳陣に対する怒りの言葉で、江本氏はこの発言により引退へ追い込まれた。
事の真相や発言の良し悪しはさておき、「上司が○○だから仕事ができない」と感じたことのある人は、エモやんに限らず、大勢いるだろう。大抵、上司というものは、自分の言いたい事は言うが、こちらの言い分には中々耳を傾けてくれない。
『嫌われる勇気』にも、「全く話が通じないうえに、すぐ怒鳴りつけてくる上司」が登場する。青年が語る、次のような上司だ。
事あるごとに怒鳴りつけてくる。どれだけがんばっても認めてくれず、話さえまともに聞いてくれない。上司は明らかに理不尽な理由で、私を嫌っている。
青年のように、「わたしの上司が、まさにそんな上司です。だから仕事ができないんです」と思った人もいれば、「そんな上司じゃ、仕事どころじゃなくなるよ。うちは、まだマシでよかった」と胸を撫で下ろしている人もいるかもしれない。
しかしアドラーは、仕事ができない原因は「嫌な上司」ではないと言い切る。
本書で取上げられている別の例から、その理由を説明しよう。
「赤面症が治ったら告白する」は、フラれないための口実?
その例とは、「赤面症」の悩みを抱く女学生だ。彼女には、まだ気持ちを打ち明けていない、思いを寄せる男性がいる。「赤面症」が治ったら告白して付き合いたいそうだ。
しかし、アドラーはこれを明確に否定する。… 続きを読む