日本司法界の腐敗を描いたノンフィクション、「ニッポンの裁判」(講談社)が、2015年10月28日に城山三郎賞(※注)を受賞した。著者の瀬木比呂志(61)氏は、東大法学部在学中に司法試験に合格し、33年間裁判官を務め、最高裁にも勤務しながら、その傍らで民事訴訟等の執筆や研究を行い、米国留学も経験。2012年に裁判官を辞め、明治大学法科大学院の専任教授へ転身した。
裁判官から仕事や私生活を聞く機会はめったにない。自宅を訪ねて話を聞いた。
※注:角川文化振興財団が主催する日本の文学賞。戦後の経済小説家・城山三郎氏の精神を受け継ぎ、小説、評論、ノンフィクションを問わず、いかなる境遇、状況にあっても個として懸命に生きる人物像を描いた作品に贈られる。

裁判所が法の番人だと思ったら大間違い!
桜子「受賞おめでとうございます。瀬木さんの場合、“いかなる境遇、状況にあっても懸命に描いた著者”として評価されたわけですね」
瀬木「ええ、そういう意味においては嬉しいですね」
選評には、“一般には知られることのない社会の不正や腐敗を焙り出す作業には、正義感や勇気を必要とする。それは城山三郎さんの意志を受け継ぐことであり、この賞にふさわしいと考えた”とある。
瀬木が暴いた、社会の不正や腐敗とは、いったい何なのか。
「ニッポンの裁判所」の目次には、“裁判官が「法」をつくる”、“明日はあなたも殺人犯”、“裁判をコントロールする最高裁判所事務総局”といった、週刊誌の中吊り広告ばりのセンセーショナルな章立てが並ぶ。
これを書いたのが芸能記者でなく、4年前まで法廷で判決を下していた元裁判官の書物の項目なのだから、私たちも無関心ではいられない。
瀬木は本書で、「今の裁判所は、国民の自由や権利を守ってくれない」と主張する。裁判官は被疑者を単なる「事務処理の対象」と見なす者も多く、裁判官の質の低下を暴露している。内部者しか知りえない司法の実態を、かつて内部者であった瀬木が赤裸々に綴ることで、日本の司法の在り方について警鐘を鳴らしている。
桜子「内容がとても衝撃的で、この本を書くのは勇気が必要でしたよね」
瀬木「それはそうです、もちろん。権力や大組織を批判することは常に勇気が必要です。特に自分の古巣ですから、そこを批判することには精神的な負担もありますよね」
桜子「怖くありませんでした?」… 続きを読む