桜子が聞く!先駆者たちのワーク・ライフ・バランス(第22回)

大学経営者、富岡徹郎が鳴らす”AI社会”への警鐘

2018.02.05 Mon連載バックナンバー

 新しい年が幕を開けて、早くも1カ月が経ったが、今年最初のインタビューは、この人に聞こうと決めていた。外資系企業日本ヒューレット・パッカード(以下HP)で要職を勤め、現在は国際基督教大学(以下ICU)常任理事を務める富岡徹郎(58歳)だ。

 彼は30年以上HPに在籍し、一昨年にICUの常務理事に就き、大学経営に力を注ぎ始めた。通信業界の従事者が教授になる例は多いが、大学経営に関与する人は少なそうだ。彼はなぜ大学へ行ったのだろう。そこには、ICUが掲げる「リベラルアーツ教育」(意味は後述)とITの深い関係があった。

 

シリコンバレーの風土を作ったHP流ビジネス

 ICUは今、旬の大学だ。昨年は皇族の婚約報道等でも注目を集めた。第二次世界大戦後の1953年に、世界平和を願う国内外の人からの寄付と祈りで設立された同校は、富岡の母校でもある。

 私は、富岡がキリスト教会で日曜学校の校長先生をしていた頃、彼と出会った。私は学生で、会えば挨拶する程度の仲だったが、彼の穏やかな雰囲気と美声は印象深かった。

 理事長室で再会した彼は、当時の面影をそのままに笑顔で迎えてくれ、私は瞬時に心が安らいだ。

桜子「今日はよろしくお願いします!」

富岡「いやあ、(取材対象が)自分でいいのかな」

 もちろん!と私は応じた。富岡は、今まで取材した人とは違う何かがある。実際、彼の手元を見ると、会話に応じるためびっしりと書かれた手書きのメモと資料があり、驚いた。過去100人程インタビューをしてきたが、このような準備をしてくれた人は初めてだ。誠実、真面目。それが彼の人柄だ。

 富岡は、英国ロンドン生まれで、幼少期に聖書を知ると、自然と信仰心を育んだ。教育関係に進むつもりだったが、80年代の日本は高度経済成長期で、多くは会社員になるのが常だった。それならまず社会経験を積もうと、横河ヒューレット・パッカード社(HP)へ入社。それが結局、長年のビジネスマン人生になった。

 もともと、日本でクリスチャンといえば、“控えめ、謙虚”というイメージがある。だから、自己主張やアピールが大事な外資系企業では、クリスチャンは出世しづらい、と私は勝手に思っていた。だが彼は35歳で管理職になり、通信営業部長、マーケティング本部長、ストレージ事業部長、経営企画の本部長等を歴任した。

桜子「振り返って、HP時代はどうでしたか?」

富岡「変化が激しく、厳しくもありましたが、とにかく面白かったです。若い頃は通信業界のお客様に育てて頂きました。インターネットの走りの頃です。HP社は、シリコンバレーの土台を作った老舗企業で、その素晴らしさは、突き詰めて言えば、高い技術力と共に、人を大事にする、という非常に優れた企業カルチャーがあったこと。信頼と尊敬を、世界中の社員が持っていた。このようなグローバル企業で働けて、自分はすごく恵まれていたわけです」

 彼は今でもHPの熱狂的なファンらしく、企業理念を熱く語ると、HP創業者による「11のシンプルルール」が記載された紙を取り出した。

「聖書の言葉じゃないか、と思うような文章が並んでいるでしょう?」と富岡は笑った。そこには『4.心から感謝せよ』や『5.ネガティブになるな』と書いてあった。聖書の言葉の“すべてのことに感謝しなさい”や“いつも喜んでいなさい”とも似ている。思わず、私もぎょっとした。

 入社以来、世界の技術革新は著しく、社会や産業構造が変化する中で、富岡は、企業の目的とは、必ずしも儲けることだけでなく、良き市民をつくるということをHPで学んだ。ちなみにシリコンバレーでは、この人間理解の精神がベンチャー・スピリットと共に、後のシリコンバレー新興企業に受け継がれているという。

 

AI時代に必要な、リベラルアーツ教育の重要性

 さて、富岡の転職理由だが、ITに従事してきたからこそ、今後の社会に「リベラルアーツ教育」が重要と痛感したからだった。

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大学経営者、富岡徹郎が鳴らす
桜子

桜子

ライター

渋谷区在住。通信会社に勤務する傍ら、働く女子の立場からWebメディアのメルマガを書き始め、IT業界の著名人にインタビューを重ねて話題となる。その後、日経ウーマンやアスキー等での連載を経て、2011年、出産を機に育児に専念。2014年4月に職場復帰し、子育てと仕事の心地良いバランスを模索中。(VIVA!桜子の超気まま渋谷/代官山・子育て日記:http://sakurako.cc/friends)

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