これまで多くの「先駆者」と呼ばれる人たちにワーク・ライフ・バランスの取材をし、筆者が痛感したことは、彼らが当然ながらその道でどっぷりで働いてきた、という事実だ。つまり、ワーク(仕事)に打ち込んだ時間の分、ライフ(プライベート)は減る。これは仕方のないことだ。
ならば、被雇用者なら、ライフの充実は図りやすいだろうか。私たちの参考になりそうな、現役サラリーマンで、社会的地位と生活の豊かさを共に手に入れている40代を探し出した。
昨年10月に「トップ1%に上り詰めたいなら、20代は“残業”するな」(大和出版刊)を上梓した山口周(46歳)は、電通、ボストン・コンサルティンググループ(以下、BCGと略)等の一流企業を出て、現在、外資系企業のコーン・フェリー・ヘイグループで経営コンサルタントとして活躍する傍ら、本を続々と出版する三児の父だ。
彼は、葉山の海でボディーボードを楽しんで東京へ出勤すると、夜には自宅の薪ストーブを愛でるという、都心と郊外を享受するライフスタイルを送る。いったいどうやって、今の生活を手に入れたのか。

魔がさして、葉山にきてしまった!!
私は山口の電通時代を知っている。とはいえ、この5年間は音信不通になっていて、連絡を取るのに苦労した。書店に並ぶ本で、彼の近況を知った。久しぶりに会ってみると、彼はナチュラリストに転向したのか、僧侶みたいな頭になっていた。
桜子「山口さんの今の暮らしは理想的ですね。“この生活を手に入れた”という実感はありますか」
山口「あります」(きっぱり)
桜子「おおっ、期待に応えてくれますね!ちなみに一日の平均的な過ごし方は?」
山口「うまくいったと思える日は、朝4時起床。物書きをして7時に子供たちと朝食をとり、仕事の後は18時帰宅。家族と夕食をとったら21時に就寝」
桜子「21時?!そんな生活を意識し始めたのはいつですか?」
山口「10年ぐらい前です」
当時は30代半ばで、BCGにて毎晩帰りは午前様だった。一日の平均睡眠は3、4時間という中で初の新書「グーグルに勝つ広告モデル」を出版した。
桜子「山口さんは激務から、“こうなりたい自分”を描き、今のスタイルに落ち着いたのですね」
山口「いや、それは全然、違います」(きっぱり)
「えっ、そうなの?!」私は驚きのあまり、身を乗り出した。
桜子「葉山に一昨年引っ越した理由は?」
山口「魔がさした。そうとしか言いようがない」(きっぱり)
ひえ~。それはなんだか、私の想定する返事とは違う!意識したというのはどういう意味だったのか。
六本木のヒルズ族みたいなのがホントは好き
山口「人間は複雑なもので、今日と明日では思うことが変わる。たとえば睡眠が3時間でストレスフルでも年収1億円と、週末に子どもと過ごせるけれど年収1,000万。どちらの暮らしが良いか」
1,000万なら悪くないと私は思ったが、山口の理想は違った。… 続きを読む