ITを駆使した、場所や時間にとらわれない働き方「テレワーク」は、働き方改革の一環として、政府が推進している就業形態です。
テレワークによって、いつでもどこでも働ける社会は、個人の生活と仕事を両立する点で理想的です。しかし同時に、従来の仕事のやり方を大きく変えることにもなるため、思わぬ“落とし穴”に落ちてしまうおそれもあります。
テレワークの落とし穴にハマらずに、テレワークを推進していくにはどうすれば良いのでしょうか。セキュリティ、労務管理、コミュニケーションの3点から考えます。
テレワークに対応できない企業は、おのずと競争力を失っていく
ある日の朝8時、総務のAさんは小学校に向かう子どもを見送り、洗濯物を干してから、自宅のPCをオンにして仕事を開始。午後4時、営業職のBさんはオフィスから1時間離れた客先へ訪問後、カフェで報告書をまとめて、家へ直帰する……。
これは、テレワークが普及した社会の姿です。テレワークは、在宅勤務で育児・介護と仕事の両立を支援するだけでなく、通勤・移動にかかる時間を短縮し、業務を効率化・省力化する利点など、経営課題を解決する施策として期待されています。
2019年現在、テレワークの普及率は19.1%です。2013年の9.3%から比べると、2倍以上の伸びとなっています(厚生労働省「テレワークではじめる働き方改革」より)。今後も導入企業が増えるにつれ、社会の「当たり前」にも変化が生まれることが予想されます。
たとえば、これまでは子どもの保育園の預け時間に合わせて出社・早退していたのが、テレワークによって在宅勤務することで、そもそもオフィスに出社する必要がなくなります。
別のケースでは、配偶者が転勤し、引っ越しをしなければいけなくなった場合、これまで勤めていた会社を退職せずに、遠隔地から業務に従事する、といったことも可能です。
さらに、台風や大雪に備え交通規制があった日でも、自宅にいながら部下や同僚とオンラインで連絡を取り合えます。オンラインの会議を利用すれば、会議室に集まる必要はありません。
こうした場所を問わない働き方は、社員の継続性を高め、事業スピードを加速させます。逆に、働き方に柔軟性がなく、テレワークが認められていない企業は、おのずと市場での競争力を失っていくでしょう。
近年の大学生の就職意識調査では、「個人の生活と仕事を両立させたい」が会社を選ぶ理由の第2位にランクインしています。個人が会社に合わせるのではなく、会社が個人に合わせた働き方を用意する社会が、これからの若い世代に望まれています。
2060年には15歳~64歳の生産年齢人口が2,000万人以上減少し、その数は5,000万人になると予測されています。人材確保が大きな経営課題となるなかで、テレワークの重要性はさらに高まるでしょう。
“テレワークで常時働ける”ということは、「働かせ放題」とイコールでは?
とはいえ、テレワークによって新しい常識が生まれるということは、現時点では顕在化されていない落とし穴にハマってしまう危険性も潜んでいます。
まず考えられるのが、セキュリティの問題です。テレワークは情報資産を社外に持ち出す行為のため、当然のことながら情報漏えいのリスクが高まります。
次に、労務管理の問題です。テレワークが“不適切な労務管理”を引き起こす危険性も考えられます。常時インターネットに接続できる社会では、いつでも働けるテレワークが長時間労働に拍車をかけることになりかねません。オフィスに出社しない働き方だからこそ、始業と就業の時刻を管理する重要性が高まります。
社員の働き方の満足度を高める上で無視できないのが、コミュニケーションの重要性です。テレワークはネットでつながる時間が長くなる一方で、リアルで対面する機会が減ります。メールやチャットなど、文章のみのやりとりでは、うまくコミュニケーションが取れず、テレワークしている従業員の孤立を招くケースもあります。
従業員のコミュニケーションがブラックボックス化すれば、重大なミスが隠蔽されたり、パワハラ・セクハラが発生する可能性が高まります。
あえて雑談を推奨してみよう
こうしたテレワークの普及によって生まれる“落とし穴”に落ちるのを防ぐには、自社に適した導入方法を見極めながら、スモールステップで現場へ浸透させるのが良いでしょう。いきなり全社に導入するのでは、人事・総務部はおろか、ITセキュリティ部門の対応も間に合いません。
最初は、1チーム、1部門など、テレワークの必要性の高い部署から期間限定で試験的に導入し、上記のようなセキュリティ・労務管理・コミュニケーションの3点で見えてくる課題を、現場の声から整理します。
セキュリティの問題では、業務内容によって、どのような端末を選択するかが重要になります。在宅勤務中心の事務職や研究職では、一般的に、ハードディスク内に情報を保存するリッチクライアント型端末が適しています。一方、移動の多い営業職では、端末の紛失・盗難に備え、利用機能を制限したタブレットを貸与する方法もあります。
利用者が限定的であれば、端末に情報を残さない仮想デスクトップ方式は、セキュリティレベルが高くなります。しかし、従業員数が多い場合、回線が逼迫し、処理速度が遅くなることもあります。加えて、グラフィック等の専門職が利用する場合には、マシン性能が低く、業務に不向きなケースもあります。利用者の数や就業スタイルによって、適切なシステム環境を用意する必要があります。
労務管理は、PCログを使って、始業・就業時間の管理に利用するのが一般的です。スケジュール管理ツールを上手に利用すれば、テレワーク従事者の勤務時間をチーム・社内で共有することも可能になります。顔が見えずとも、誰がどの時間帯で働いているか把握できるだけで、連携はスムーズになります。
加えて、ネット回線速度、光(照明)、デスクの場所、外部の騒音等、テレワーク従事者の就業環境にも気を配る必要があります。もし就業環境が悪い場合、社外のサテライトオフィスを利用するという選択肢もあり得ます。
テレワーク従事者の孤立を防ぐには、テレビ会議やチャットツールを積極的に利用するのが良いでしょう。オフィスで雑談をするように、テレビ会議やチャットでも、あえてインフォーマルな会話を推奨することが重要です。何気ない会話は、親睦を深めたり新しいアイディアが生まれる場となります。定期的に顔を合わせるイベントを開催するのも良いでしょう。
テレワークが持つメリットは、これからの社会が必要とするものです。従来の働き方とは異なる部分が多いかもしれませんが、そのギャップを埋めていく努力が、企業の競争力につながっていくことでしょう。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2019年10月29日)のものです。