AIがコンタクトセンターの進化の切り札として大きく期待されています。
しかし、具体論になると、どこか曖昧で、用語の定義も明確ではありません。そのため、AIという言葉が独り歩きして都合よく使われ、過剰な期待を煽られたり、“仕事が奪われる”と脅されるなど、さまざまな混乱を招いています。そのような状況が、AIを“バズワード”と言わしめているのでしょう。
本稿では、コンタクトセンターの現場の視点に立った、AIに対する捉え方や考え方を解説します。
AIという製品はどこにもない
かつてITが一般化し始めたころ、コンピューターに無頓着な社長が情報システム部長を呼びつけて、「最近流行ってるITとやらを、うちも入れたらどうだ」と指示する“笑えない笑い話”が話題になりました。
AIについても、「AIが人間と同じように仕事をしてくれる」「AIを導入すれば、すぐにでも“すごいこと”ができる」など、上記の社長と同様の無知や誤解が多く見られます。
これをコンタクトセンターにあてはめると、「AIがエージェントに成り代わって顧客応対をしてくれる」「エージェントをAIに置き換えて人員と予算の削減を図ろう」という発想になり、さらには「AIは採用難を解消する切り札だ」などと、AIの技術とは直接無関係なことにまで、都合良くこじつけられることになるのです。
そもそもAIとは、研究の分野や概念を表す言葉であり、AIと呼ばれる単一の製品が存在するわけではありません。クルマに例えると、AIはエンジンを開発するための技術や設計思想に相当しますが、ドライバーが購入し利用するのは完成車としての製品であり、エンジン、ましてやその技術を購入するわけではありません。
コンタクトセンターの現場で実際に使用するのは、自然言語処理やディープラーニングといったAI関連の技術を使って、コンタクトセンターの特定の目的のために開発されたシステムやソフトウエアのことです。AIに対して過剰な期待を抱いている経営者やコンタクトセンターの管理者は、まずはAIがどういうものなのか、正しい認識を持つべきでしょう。
エージェントをAIに置き換えることはできない
もしAIを搭載したロボットが、鉄腕アトムのように人間と同様の顧客応対をしてくれるのなら、コンタクトセンターの最前線の現場からエージェントの姿が見られなくなることでしょう。
しかし、今のところそれはまだ、SFの世界の域を出ていません。
なぜなら、… 続きを読む