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なぜ優良企業は新世代の技術競争に敗れ去るのか
2019.04.16

人気のビジネス書から学ぶ第1回

なぜ優良企業は新世代の技術競争に敗れ去るのか

著者 編集室「文音」宮澤 裕司

「イノベーターのジレンマ」という言葉をご存知だろうか。これは巨大企業が、新興企業よりもイノベーションに遅れを取ってしまい、結果的に需要を失ってしまう現象を表す言葉である。つまり、「一時代を築いた『勝ち組企業』は、新次世代の技術競争に敗れ去る」ということである。

 2018年、この理論に関するある書籍が話題となった。それが、「『イノベーターのジレンマ』の経済学的解明」(日経BP社)である。この本は、イェール大学准教授の経済学者・伊神満氏が、同じテーマに対して「経済学の本気をお見せしよう」という意気込みで取り組んだ1冊である。

 なぜ優良企業は、新世代の技術競争に敗れ去ってしまうのか。伊神氏の考えを同書から読み解いてみる。

 

イノベーターのジレンマは「後付けの経営学」ではないか?

 「イノベーターのジレンマ」という理論を提唱したのは、アメリカの経営学者であるクレイトン・クリステンセン氏である。彼は20年前にベストセラーとなった自著『イノベーターのジレンマ』(※1)にて、この理論の解明に取り組んだ。

 クリステンセン氏はハードディスク起動装置(HDD)業界を取材し、旧世代の「勝ち組」企業が抱える組織的・心理的問題を指摘。既存の大口顧客のニーズへの対応が優先されたり、旧来の主力部門出身の経営陣が過去の成功体験に引きずられがちだったりすることが、新時代への対応を後手に回らせることになると論じた。

 しかし伊神氏は、クリステンセン氏の著作に経営学的アプローチとして敬意を評しつつ、「失敗者は、失敗につながるようなバイアスを抱えていたからこそ、失敗したのだ」という捉え方は「後付けの経営学」に過ぎないと指摘。定量的なデータを集め、論理を数学的に整理した上で、定量的なデータに基づいた「実証分析」を行う必要があると訴える。

 経済学を学んだことのない人間にとっては、「実証分析」と言われただけで多少身構えてしまうかもしれない。実際、本書の後半部分は本格的な実証分析が展開されていくことになるが、著者自身文中で語っているように、その部分は読み飛ばしてしまっても問題のない構成となっている。なぜなら、終盤の「ジレンマの『解決』(上・下)」の2章で、イノベーターのジレンマという“謎”に対する解答が、筋道立てて示されていくからである。

(※1)原題『The Innovator’s Dilemma』。邦題は『イノベーションのジレンマ』ではあるが、「『イノベーターのジレンマ』の経済学的解明」の中では、原題名通り「イノベーターのジレンマ」と表記されている。

 

既存企業のイノベーションを妨げる原因は「共喰い」「抜け駆け」「能力格差」?

 イノベーターのジレンマを解明していくために、本書では、既に成功を収めている「既存企業」と「新参企業」にとって、イノベーションがどのような仕組みで成り立っているかを、いくつかのキーワードから検討している。

 1番目のキーワードは… 続きを読む… 続きを読む

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編集室「文音」宮澤 裕司

編集室「文音」宮澤 裕司

1960年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社に勤務し、雑誌編集長を経て2013年に独立。現在はフリー編集者、ライターとして企業取材、経営者インタビューを中心に活動。

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