「怒り」の性質をとらえ、感情をコントロールする「アンガーマネジメント」が注目を集めている。連載初回では、アンガーマネジメントの基本的な情報を取り上げたが、より具体的な例として、怒りのコントロールに失敗した、あるアスリートの例を取り上げよう。
「50年に1人」の天才・ジダンの晩節を汚した頭突き
昨年12月18日に行われたFIFAクラブワールドカップジャパン2016の決勝戦。スペインのレアル・マドリードは、日本の鹿島アントラーズを下し、世界のクラブチームの頂点に立った。チームを率いるのは、元フランス代表のジネディーヌ・ジダン監督だ。
ジダンは1988年から2006年に、イタリアのユベントスや、前述のレアル・マドリードといった大チームで活躍した“司令塔”である。個人タイトルではFIFA最優秀選手賞、バロンドール、ゴールデンボール賞などを受賞し、チームではワールドカップ、欧州選手権、トヨタカップ、チャンピオンズリーグなどの主要タイトルを獲得。UEFA(欧州サッカー連盟)が過去50年間の欧州最優秀選手を選ぶ「ゴールデンジュビリーポール」では、最も優れた選手に選ばれた。まさに、世界の名選手の中の名選手である。
そんなトップスター選手だったジダンだが、現役引退となる2006 FIFAワールドカップの決勝・対イタリア戦において、イタリア代表のマルコ・マテラッツィへの頭突き行為により退場処分を受けてしまった。10年以上経った今でも覚えている人は多いだろう。
この「ジダン頭突き事件」は、アンガーマネジメントができなかった典型的な事件である。あのとき、ジダンに何が起こったのだろうか。
両者が語る、頭突き事件の真相
決勝から2日後、マテラッツィはイタリアのスポーツ紙「ガゼッタ・デロ・スポルト」のインタビューで、ジダンを侮辱したことを認めた。試合中、マテラッツィはジダンに対し、ユニフォームを掴むなどの激しいマーク(相手の攻撃を妨害する行為)を行っていた。それに対して、ジダンが「ユニフォームが欲しいのなら、試合後にくれてやるよ」と先に言ったことが、そもそもの発端であると弁明した。
その翌日、ジダンはフランスのテレビ局「カナル・プリュス」のインタビューを受け、「あの試合を見ていたすべての子どもたちに謝りたい」と話し、「ユニフォームの交換は試合が終わってからにしようじゃないか」と言ったことを認めた。その後、マテラッツィが… 続きを読む