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“仕事よりも大切なもの”を選んだ中間管理職・高山右近
2019.01.26

日本を支えた“中間管理職”の苦悩第34回

“仕事よりも大切なもの”を選んだ中間管理職・高山右近

著者 かみゆ歴史編集部

 長時間労働による労働者への悪影響が広く議論されるようになった昨今、これに呼応するように「雇われない働き方」であるフリーランスの道を選ぶ人が増加している。クラウドソーシング大手のランサーズが行った「フリーランス実態調査2018年版」によれば、日本国内で副業・兼業を含む業務委託の仕事を請け負う広義のフリーランスは約1,120万人で、総労働人口の17%を占める。

 フリーランスは正社員と比べて収入が安定しない、社会保障が手薄になるなどのデメリットがあるが、自分の裁量で働く時間や場所を決められることは大きなメリットである。この結果、自らが望むライフスタイルを実現することも可能だ。

 このような業務形態が普及した背景には、いつでもどこでも仕事を受注できるネットの発達が間違いなく関与している。しかし仕事は最終的に人と人のつながりで生まれるものであり、現在のように一般的になる以前からフリーランスは存在してきた。たとえば、「食客(しょっかく)」と呼ばれる身分も、フリーランス的立場といえるだろう。食客とは、特定の主君や領地を持たず、招いてくれた人物に扶養してもらう見返りとして、自らのスキルをその人物に提供する。

 食客になる理由は「主家が滅びた」、「主君と不仲になった」などさまざまだが、中でも異彩を放つのが、戦国大名・高山右近である。彼は「キリシタンとして生きる」というライフスタイルをかなえるために、中間管理職を辞し、フリーランスになったのだ。

 

なぜ右近はキリシタンとして生きるようになったのか

 右近は摂津(現・大阪府北部から兵庫県南東部)の豪族・高山友照の嫡男として誕生した。キリシタンとなったのは10歳頃とされる。当時の日本ではローマの修道会・イエズス会が布教活動を行っており、日本人宣教師・ロレンソ了斎の説教に感銘を受けた友照の勧めで、ともに洗礼を受けた。右近の洗礼名は、ポルトガル語で「正義の人」を意味するジュストという。

 この頃の摂津は支配者の転換期にあり、近畿一帯を勢力下に置いた三好長慶が病没すると、衰退した三好家に代わって室町幕府15代将軍・足利義昭と提携した織田信長が台頭していた。このため友照と右近も主君を長慶配下の松永久秀から信長配下の和田惟政(これまさ)に変更したが、そのわずか3年後に惟政は、信長に抵抗する池田家との戦いで討死してしまう。そこで二人は、惟政の後継者となった惟政の嫡男・惟長(これなが)に引き続き仕えた。

 しかし、高山父子と惟長の間にはすぐに対立が生じる。信長と義昭が不仲になったため和田家はどちらに肩入れするか決める必要に迫られたが、高山父子が信長を支持したのに対し、惟長は義昭を支持したのである。当然ながら惟長は高山父子を疎ましく思い、暗殺を計画した。会議を持つと言って、居城の高槻城に呼び寄せたのである。

 これを事前に察知した高山父子は罠を逆手に取り、あえて高槻城に乗り込み、惟長を追放した。このとき20歳頃だった右近は、真っ先に惟長を斬りつけた。自らも重傷を負ったが、奇跡的に回復したことから信仰心を強めたという。

 こののち、高山父子は信長配下の荒木村重を新たな上司とした。高槻城は信長によって友照が城主と認められ、2年後には友照から家督を継いだ右近が高槻城主の座に就いた。高山家当主となった右近は、キリシタンとして慈善事業に励み、領内の同胞に自治組織を形成させて、貧者や孤児の救済を積極的に行った。

 

上司を裏切るか、キリシタンを貫くか

 こうして着々と地盤を固めていた右近に、突如として試練が降りかかる。村重が信長の敵対勢力である浄土真宗寺院・石山本願寺と手を組み、信長に反乱したのだ。

 村重がこの行為に出た理由は諸説あり、判然としない。しかし信長を裏切ったことは事実である。激怒した信長は、右近に村重を討つよう命じた。右近にしてみれば、本社命令で、普段から世話になっている直属の上司である“支社長”の攻撃を命令されるという、実に中間管理職らしい板挟みの事態に陥った。

 右近は村重に、信長のもとへ戻るよう勧めた。しかし村重は頑として聞き入れない。一方の信長は「命令に従うなら、昇給とキリシタンの保護を約束する」と、右近の懐柔に出る。しかし右近が去就に迷っていると、短気な信長は「返事がないならキリシタンは皆殺し」と最終通告してきた。

 そこで右近が選んだ道は、… 続きを読む… 続きを読む

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かみゆ歴史編集部

かみゆ歴史編集部

歴史コンテンツメーカー

歴史関連の書籍や雑誌、デジタル媒体の編集制作を行う。ジャンルは日本史・世界史全般、アート、日本文化、宗教・神話、観光ガイドなど。おもな編集制作物に『日本の山城100名城』(洋泉社)、『一度は行きたい日本の美城』(学研)、『戦国合戦パノラマ図鑑』(ポプラ社)、『系図でたどる日本の名家・名門』(宝島社)、『大江戸今昔マップ』(KADOKAWA)、『国分寺を歩く』(イカロス出版)など多数。お城イベントプロジェクト「城フェス」の企画・運営、アプリ「戦国武将占い」の企画・開発なども行う。公式サイトはwww.camiyu.jp

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