ビジネスの計画を立てる際、「大きな目標」とそれを達成するための「小さな目標」を設定することが、効率的かつ精度の高い事業運営を可能にする。この大きな目標は「KGI(Key Goal Indicator=重要目標達成指標)」、小さな目標は「KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)」と呼ばれる。そして、KPIを達成するためには、成功の要因となる「KSF(Key Success Factor=重要成功要因)」を見出すことが求められる。

 KGIとKPIおよびKSFが揺らがなければ、「仕掛け」の手段や時期を客観的に見極められるうえ、対応する必要がない事象が避けられる。組織全体と眼前にある現場の両者に気を配らなくてはならない中間管理職にとって、重要な指針といえるだろう。

 このような達成目標を常に意識して行動した人物が、幕末にも存在した。長州藩(現・山口県)の桂小五郎である。明治維新後に名乗った「木戸孝允(きどたかよし)」の名でもよく知られる。

 西郷隆盛、大久保利通と並んで明治維新における「維新三傑」に数えられる小五郎だが、危険が迫るとすぐに姿をくらませることから「逃げの小五郎」というあだ名があり、重要ポストを担った人材とは信じがたい雰囲気もある。しかしこれこそが小五郎の戦術だ。小五郎は達成目標を明確にして不要なことからは逃げ、成功を狙い撃ちして維新の重要人物となったのである。

 

剣を抜かない剣の達人

 近年のNHK大河ドラマでの小五郎役は、2010年「龍馬伝」で谷原章介、2013年「八重の桜」で及川光博、2015年「花燃ゆ」で東山紀之、そして現在放送中の「西郷どん」で玉山鉄二と、主役級のキャストが演じている。小五郎が幕末の多くの場面で強い影響力を持っていたことを意味するといえるだろう。

 ところが、幼少期の小五郎は病弱で、人に影響力を与える以前に、成人まで生きられないかもしれなかった。

 小五郎の実父は長州藩に仕える医者・和田昌景で、8歳の頃、近隣に住む武士・桂孝古の末期(まつご)養子となって桂姓を名乗る。末期養子とは、当主が死に瀕している際に緊急の後継者として取られる養子で、病を得ていた孝古は、小五郎を養子に迎えてすぐに亡くなった。

 桂家は長州藩主・毛利家直属の家臣団である大組に属していたため、跡継ぎとなったからには、病弱であろうとも武士として生きなければならない。昌景から「武士の生まれではないのだから、武士以上に武士らしくなれるよう努力せよ」と叱咤された小五郎は、剣術の修練に励む。結果、16歳で無事に成人の儀式である元服を果たす。20歳になると、さらなる剣術修行のため江戸へ留学し、わずか1年で剣術道場・練兵館の塾頭まで登り詰めた。

 それほどの実力者でありながら、小五郎は生涯に一度も人を斬ったことがないと伝わる。それは剣術を通じて戦いのリスクをよく理解していたからだ。戦えば必ず損失が出る。その損失以上の利益がない戦いは避けるべき――この考え方が小五郎の「逃げの理論」の根幹となったのである。

 

池田屋での「間一髪」は偶然ではない?

 小五郎が練兵館の塾頭となった同年、アメリカのペリー艦隊、いわゆる「黒船」が日本に来航して開国を迫り、江戸幕府は朝廷の許可を得ずこれを承諾した。このため日本国内では大反発が起き、尊王攘夷運動が活発化する。尊王攘夷とは、「天皇を尊ぶ」という意味の尊王と「外国勢力を武力排除する」という意味の攘夷を組み合わせた言葉。中でも当時の長州藩は、尊王攘夷派の筆頭格だった。

 剣術とともに英語や海外の兵学も学んでいた小五郎は、この頃から藩政に欠かせない中間管理職となり、諸藩に「破約攘夷」への協力を要請する交渉役として奔走した。破約攘夷とは「幕府が開国のために外国と結んだ条約を破棄し、条約を結び直す段階で対立があれば戦闘も辞さない」という政治指針で、実現するには諸藩の意志を統一して外国に対抗する必要があった。いわば当時の長州藩のKGIが「破約攘夷」、KPIが「諸藩の協力を得る」だったといえる。

 しかし長州藩には… 続きを読む

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かみゆ歴史編集部

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歴史コンテンツメーカー

歴史関連の書籍や雑誌、デジタル媒体の編集制作を行う。ジャンルは日本史・世界史全般、アート、日本文化、宗教・神話、観光ガイドなど。おもな編集制作物に『日本の山城100名城』(洋泉社)、『一度は行きたい日本の美城』(学研)、『戦国合戦パノラマ図鑑』(ポプラ社)、『系図でたどる日本の名家・名門』(宝島社)、『大江戸今昔マップ』(KADOKAWA)、『国分寺を歩く』(イカロス出版)など多数。お城イベントプロジェクト「城フェス」の企画・運営、アプリ「戦国武将占い」の企画・開発なども行う。公式サイトはwww.camiyu.jp

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