なぜコメディアンが岩倉具視を演じるのか

 NHK大河ドラマ「西郷どん」は現在、鈴木亮平演じる主人公・西郷隆盛が、青木崇高演じる主君・島津久光の怒りを買って奄美群島に流刑となる「島編」が展開している。隆盛はこののち故郷の薩摩藩(現・鹿児島県)に帰還し、いよいよ明治維新の渦中に身を投じる。

 隆盛が歴史の表舞台に戻ることで、視聴者が心待ちにした志士も続々登場するだろう。坂本龍馬役には小栗旬、勝海舟役には遠藤憲一など、話題性のある配役が決定している。

 公家の要人・岩倉具視(いわくらともみ)の配役にも注目だ。演じるのは落語家の笑福亭鶴瓶だが、実は大河ドラマで岩倉具視を演じるのはコメディアンが多い。近年では2008年の「篤姫」で片岡鶴太郎、2013年の「八重の桜」で小堺一機が演じている。

 これらの演者に共通するのは、「一見するとコミカルだが、内面には凄味を帯びている」点だろう。具視は実際に、波風を嫌う公家が集まった朝廷内で、激動する幕末の政局を動かした異色の存在。周到に策を練り、機を見て大胆に動く人物像が、配役によく現れている。

 とはいえ、具視自身が革命を望んだわけではない。目的はあくまで朝廷の復権であり、そのために奔走した、朝廷という組織を支える一介の中間管理職だったのである。

 

授業の内容はわかったから将棋をしよう

 具視は、比較的身分が低い「下級公家」の堀河家の次男として生まれたが、やがて堀河家よりやや位が高い、下級公家の岩倉具慶(ともやす)の養子となり、岩倉姓を名乗った。この背景には、具視の学問の師である儒学者・伏原宣明(ふせはらのぶはる)が、具視の非凡さを見抜いて、具慶に養子縁組を勧めたことがある。宣明の講義中、具視が友人に対し「講義の内容はもうわかったから、将棋を指して知略を鍛えよう」と話しているのを見て、宣明は具視の器の大きさを感じたという。

 具視は成長してからもこのような我の強い言動が目立ったため、右にならえの性質が強い公家たちからは下品だと嫌われた。しかも公家は家柄至上主義なので、下級公家の具視は、朝廷内で常に侮られてしまう。それでも挫けることなく、公家の最高官位である関白の鷹司政通(たかつかさまさみち)に歌道の弟子として気に入られ、そこから時の天皇・孝明天皇に引き合わせてもらい、側近の侍従に採用された。こうして具視は、朝廷の政治参加を先導する立場になる。

 公家の世界では、宮廷行事の滞りない運営が使命で、政治を論じることは俗っぽいと考えられていた。しかし具視は、外国に開国を迫られて日本中が揺れている今こそが、長年幕府に奪われてきた政治権力を、朝廷に取り戻す好機と捉えていたのである。

 

公家の復権を狙うも、身内に足をすくわれる

 具視は朝廷復権の具体的な策として、孝明天皇の妹・和宮(かずのみや)を江戸幕府14代将軍・徳川家茂に嫁がせて「公武合体」を実現することを考える。

 公武合体とは、公、すなわち公共の統治機関である朝廷と、武、すなわち武士の頂点である幕府の協力体制を指す。朝廷を無力化した幕府と敵対するのではなく、味方に取り込んで復権をはかるのだ。この公武合体の象徴として、天皇家と将軍家の婚姻は不可欠だった。もともと和宮は別の親王と婚約を結んでいたが、それを破棄してまで、和宮と家茂の結婚は実行された。

 具視の望み通り、朝廷と幕府の協力体制が整ったが、その体制はさっそく覆る。… 続きを読む

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かみゆ歴史編集部

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歴史コンテンツメーカー

歴史関連の書籍や雑誌、デジタル媒体の編集制作を行う。ジャンルは日本史・世界史全般、アート、日本文化、宗教・神話、観光ガイドなど。おもな編集制作物に『日本の山城100名城』(洋泉社)、『一度は行きたい日本の美城』(学研)、『戦国合戦パノラマ図鑑』(ポプラ社)、『系図でたどる日本の名家・名門』(宝島社)、『大江戸今昔マップ』(KADOKAWA)、『国分寺を歩く』(イカロス出版)など多数。お城イベントプロジェクト「城フェス」の企画・運営、アプリ「戦国武将占い」の企画・開発なども行う。公式サイトはwww.camiyu.jp

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