戦国時代に越後(現在の新潟県)を治めていた上杉謙信は、自身が参加した合戦で一度も負けたことがない“軍神”でありながら、自領の越後より外にはほとんど勢力を広げず、利害を捨てて人道を重んじる「義」を掲げて自国のために戦った、珍しい戦国大名です。その孤高の生き様から、当時の人々に畏怖の念を抱かれ、「越後の龍」と呼ばれました。
謙信は生涯独身を貫いたため実子はいませんが、養子を数人もらっており、そのうちのひとりが、今回紹介する2代目・景勝(かげかつ)です。
養父である謙信に比べて、景勝の評判は芳しくはありません。しかし、2009年の大河ドラマ「天地人」の主人公にもなった家臣の直江兼続と二人三脚で、明確なビジョンを打ち出しながら逆境を乗り越えていきました。
天下に名を馳せた「越後の龍」の養子
謙信は相模(神奈川県)の長尾郷からはじまった長尾家の分家である越後長尾家の出身で、関東を管理する関東管領・上杉憲政の養子となって上杉姓を名乗りました。このため、謙信以降の上杉家は長尾上杉家とも呼ばれます。
長尾上杉家の2代目が景勝です。謙信の姉・仙桃院(せんとういん)とその夫・長尾政景との間の子で、一度も妻を持たなかった謙信の養子に迎えられました。景勝は謙信を尊敬して「義」を重んじ、常に無口かつ無表情を貫いて、謙信のような威厳を醸し出していたといわれます。しかし、カリスマ性や求心力では謙信に及ばないと評されることが多く、知名度はいまひとつ。
ならば景勝は凡庸な2代目だったのかといえば、もちろん違います。
謙信というと清廉な義将ぶりに目が行きがちですが、… 続きを読む