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三宅陽一郎が語る、人と人工知能が共生する世界とは
2019.04.01

人工知能ってなんだろう?

三宅陽一郎が語る、人と人工知能が共生する世界とは

著者 三宅陽一郎

 ビジネスの世界では、現在、人工知能(AI)が注目を集めています。しかし、ゲームAI開発者であり、人工知能学会編集委員も務める三宅陽一郎氏は、現在取り上げられている人工知能は、人工知能の可能性の一端に過ぎないと言います。

 それでは、人工知能とは一体何なのか? そして、人間は人工知能とどのように共生していくのか? 三宅陽一郎氏が人工知能の歴史を紐解きながら、解説します。


 

人工知能ってなんだろう?

 人工知能とは何でしょうか? なぜ、いま、執拗に人工知能を推進しようとしているのでしょうか? その変化はいつから、そしていつまででしょうか?それはパッと生まれて、ポッと消えていくものなのか、またずっと継続していくものなのでしょうか?

「エンジニアは人工知能のことを知っている」と、エンジニアではない方は思われるかもしれません。しかし、人工知能は定義が難しい学問です。実際のところ、誰も人工知能を定義できません。みんな自分の立場から定義しているだけで、コンセンサスの取れた統一的な定義はないのです。

 なぜなら、“知能とは何か”が良くわからないからです。そして、エンジニアは、エンジニアでない人が人工知能のことをよくわからない、と思っています。なぜなら、自分たちでさえ知らないのですから。

 ですから、遠い将来、「あの頃、おまえ人工知能ってわかっていた?」と問われれば、誰もが、「実はよくわかっていなかったんだ」ということになります。

「じゃあ、いったい、どうして、人工知能を推進していたの?」

「世の中の流れがなんとなく、そっちだったし、他もなかったから」

 

「人工知能はディープラーニング」という誤解

 人工知能には二種類あって、シンボルで作る「記号主義型人工知能」、神経回路シミュレーションで作る「コネクショニズム」の二つがあります。ディープラーニングは後者の「コネクショニズム」が発展した現代版です。前者は検索エンジンや、IBM Watsonなどです。前者はこつこつと毎日進化します。後者はブレイクスルーが20年おきにあって、現代はその勢いの最中です。

 こういう事情の中で、「人工知能はディープラーニング」のことである、という言説があるには、ある程度やむを得ないことです。もちろん、それはまったく正しくない。ディープラーニングは人工知能が持つ技術の、100のうちの1つに過ぎません。

 しかし、多くの人の人工知能に求めるものがディープラーニングであるために、あるいは、そのような間違った言説がすでに大きく流布してしまったために、「だいたい」この定義は合っている、ことにする、というのが、最近の流儀です。

 人工知能の専門家でさえ、この定義を黙認するのは、残りの99個の技術を解説することに、なかなか興味を持って貰えないからに過ぎません。しかし、本当は人工知能の全容というのは混沌としていてもっと面白いものです。富士山だけが山でないように、たくさんの魅力的な頂きがあります。ディープラーニングは素晴らしい技術だが、それ以外にも、たくさんの可能性が人工知能にはある、だから、ディープラーニングでうまくいかなくても、残り99個の技術も試して欲しい、と専門家は思っています。

 

20年単位の技術革命

 人工知能の定義云々は一端置いておくことにして、もっと大きなスケールで人工知能とテクノロジーを考えてみましょう。

 1975年から1995年は「コンピュータを使いこなしたものが勝つ」と教えられた時代でした。次に、1995年から2015年は「インターネットを使いこなしたものが勝つ」と言われた時代でありました。そして、2015年から2035年は、「人工知能を使いこなしたものが勝つ」時代です。

 1975年から1995年は、コンピュータに関わるソフトウェア企業が生まれた時代です。マイクロソフト社は1975年に、アップル社は1976年に、シスコ社は1984年に設立されました。1995年から2015年は言わずと知れたインターネット企業隆盛の時代です。Amazon社は1995年に、Google社は1998年に、Facebook社は2004年に設立されました。

 2015年から2035年は、人工知能企業(人工知能をビジネスとして扱う企業)が出現する時代だと考えられます。1975年と1995年に大きくなる企業を予測できなかったように、人工知能を主力とする企業があまた出現していて、後に世界企業となる人工知能企業を見出すことはなかなかに難しいことです。1975年にマイクロソフト社やアップル社に投資できていたら、1995年にAmazon社に投資できていたら、と思うのは、当然のことです。

 投資家は現在、どのAI企業が将来の“鷹”になるかを、ひな鳥のうちに見分けようとしています。

 

人工知能の流れは、強力な歴史の流れである

 過去からの流れを知れば、未来が見える、ここで、さらにスケールを上げて、300年間のテクノロジーを振り返ってみましょう。

 テクノロジーを「自動化の歴史」とみてみましょう。人間の物理的な仕事を機械が肩代わりした、これが1760年の産業革命(は諸説あるが)の始まりです。機械が世界の隅々まで行き渡るのに、200年以上かかりました。機械という層が地球を覆うまでには、それぐらいの時間がかかるわけです。

 その次に、この機械にコンピュータが搭載されることになります。機械の層の上に、コンピュータの層が上書きされて行きます。これがコンピュータ革命です。1950年から1995年までに起こり、さらに現在も続いています。

 そこに、1990年前後から、世界中で通信網として、インターネットが張り巡らされます。有線からワイヤレスになり、ブロードバンドから5Gになろうとしています。ほとんどの機械はコンピュータを通してインターネットに接続され、情報がお互いに受け渡されます。これが通信革命です。機械の層の上に、コンピュータの層が敷かれ、さらにインターネットの層が敷かれることになります。

 ここまでで、テクノロジーは現実、機械、コンピュータ、インターネットという四層の構造を持っていることになります。そして、その上に、人工知能をあらゆる場所で実装しようというのが、「知能革命」と呼ばれる現代です。

 現実の上に機械層が敷衍(ふえん、押し広げること)し、次にコンピュータ層、ネットワーク層、そして、人工知能の層が敷かれようとしています。これは人類が現実を変容させて来た歴史の帰結であり、自動化の一端の終着点でもあります。

 そうであるがゆえに、人工知能の流れは、決して一過性のものではなく、強力な歴史の流れでもあります。すべての場所で、すべてのソフトウェアが知的機能を持つようになる革命です。

 

人工知能は現実に“溶けていく”

 人工知能の層の次に来る層は何でしょうか?… 続きを読む… 続きを読む

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三宅陽一郎

三宅陽一郎

ゲームAI開発者

京都大学で数学を専攻、大阪大学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程(単位取得満期退学)。2004年よりデジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事。東京大学客員研究員、理化学研究所客員研究員、IGDA日本ゲームAI専門部会設立(チェア)、DiGRA JAPAN 理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。著書に『人工知能のための哲学塾』 『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『人工知能の作り方』(技術評論社)など多数。 公式サイト miyayou.com

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