2018年のNHK大河ドラマ「西郷どん」で躍動する幕末志士たち。本連載では、そんな彼らの「散り際」を紹介している。

 過去2回は倒幕派の志士、西郷隆盛坂本龍馬を取り上げたが、今回は彼らと敵対した佐幕派(幕府を助けた勢力)の代表格、近藤勇(いさみ)を紹介したい。幕末の京都で、街の治安を守り、不逞浪士を震え上がらせた新選組のリーダーは、どんな最期を遂げたのだろうか。

 

追い詰められても健在だった新選組の武名

 江戸時代最後の年となった、慶応4年(1868)4月。旧幕府軍は上方(京・大坂)を追われ、江戸からも勢力を一掃されつつあった。江戸無血開城の交渉により、すでに江戸は新政府軍に明け渡されることが決まっていたからだ。しかし、その一方で新政府軍による「占領」を良しとせず、旧幕府軍として抗う勢力が相当数あった。

 その旧幕府軍を構成する一組織、「新選組」も健在であった。新選組は、下総国流山(千葉県流山市)に追い詰められていたが、局長の近藤勇、副長の土方歳三は、まだまだ望みを捨てていなかった。

 なにしろ、京の街で武名を轟かせた新選組である。明治新政府に反発する者たちが、続々とその旗のもとに集まり、加勢を願い出た。その数は220名を超え、京都で活躍していた最盛期と同程度までにふくれ上がったのである。

 まだ、充分に戦える――。近藤たちはそう考え、武備を整えていた。ところが、その陣所に新政府軍の一団が押し寄せ、たちまち包囲されてしまう。「流山に武装集団がいる」と、通報した者がおり、実地調査に来たのである。そのとき、新選組の大半はちょうど、野外調練に出ており、陣所には数名しか残っていなかった。

 「しまった」と、覚悟を決めた近藤、ここで潔く腹を切る覚悟を決めた。が、副長の土方がそれを押しとどめる。

 「ここに割腹するは犬死になり」

 まだ、我々が新選組であることは見抜かれていない。弁明して切り抜ければ、まだ助かる道はある、そう助言したのだ。

 「あいわかった」と、近藤は「大久保大和」の偽名を使い、新政府の軍監、有馬藤太(とうた)に同行して板橋へと赴き、取り調べに応じることにした。生きるため、わずかな可能性に賭けたのだ。しかし、結果的にこれが近藤と土方の永遠の別れとなってしまう。

 

一介の農民から念願の武士へ

 幕末に名を馳せた新選組のリーダーである近藤と土方は、元は江戸のはずれ、多摩の農家に生まれた農民であった。しかし、幕末動乱の剣術隆盛のころにあって、2人は剣で身を立てる。近藤は江戸の小道場、天然理心流剣術道場「試衛館」(しえいかん)の4代目となり、土方はその門人となった。

 この頃に、近藤勇の実力を聞きつけ、道場に集まってきたのが、沖田総司、井上源三郎、
永倉新八たち。彼らは、後に京都で結成する新選組の中核を成した。彼らの出自も、近藤たち同様の百姓身分か、それに近い下級武士の次男坊などだった。みな武士に憧れ、武士よりも武士らしくあろうと努力する者もいた。その向上心が、のちに京で花開く原動力となったのである。

 嘉永6年(1853)にペリーが来航し、幕末の京都は荒れに荒れていた。幕府の政策に反発し、天皇こそ絶対の存在であると、「尊皇」を唱える浪士たちが集まり、それに反する政策や言動をした者、意に沿わぬ者たちを「天誅」(てんちゅう)と叫び、斬り捨てた。また、それに乗じた殺人や強盗も起きた。

 当時、京都には所司代や町奉行という徳川幕府の出張機関があったが、彼らだけでは、そうした過激派の浪士たちを抑えきれなかった。そこで、幕府は新たな警察組織「京都守護職」を置く。その下部組織のひとつが新選組だった。

 当初は「壬生(みぶ)浪士組」と呼ばれ、氏素性も知れぬ集まりに過ぎなかったが、京都守護職の会津藩から「新選組」の名が与えられて以降、正式な警察組織として活動。1864年の池田屋事件、禁門の変などでは、倒幕派の勢力を一掃する活躍を見せ、大いに武名を高めた。

 1867年、新選組は、近藤以下全員が幕臣に取り立てられる。ついに正式な武士になったのだ。隊士は200名を超え、新選組も近藤の人生も絶頂期を迎えた。

 だが、それも長くは続かなかった。新選組がいかに奮闘しても、時代の流れは急であり、幕府は消滅へと向かった。1866年の「薩長同盟」を皮切りに、「大政奉還」や「王政復古の大号令」など水面下で政治的な事件が次々と起き、それらは新選組の活動能力を超える速さで進められていた。

 

剣と剣で戦う時代は終わった

 新選組が特に痛手を負った事件が、… 続きを読む

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上永 哲矢

上永 哲矢

歴史コラムニスト、紀行家

日本史・三国志を題材に各種雑誌やウェブに連載記事多数。歴史取材の傍ら、城や温泉に立ち寄ることが至上の喜び。著書に『高野山 その地に眠る偉人たち』(三栄書房)、『三国志 その終わりと始まり』(三栄書房)、『ひなびた温泉パラダイス』(山と溪谷社)。神奈川県横浜市出身。公式サイト:http://kakutei.cside.com/job/

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