幕末志士、散り際の美学(第2回)

坂本龍馬/幕末屈指の活動家はなぜ暗殺されたのか?

2018.03.14 Wed連載バックナンバー

 2018年のNHK大河ドラマ「西郷どん」で躍動する幕末志士たち。本連載では、そんな彼らの「散り際」のドラマを紹介している。

 第2回目は、西郷と並ぶ人気を誇る「坂本龍馬」を取り上げる。薩長同盟や大政奉還の成立に貢献するなど、明治維新に大きな影響を与えた龍馬であるが、1867年、何者かに暗殺される。幕末一の革命家は、なぜ明治という新しい時代を迎える前に殺されなければならなかったのだろうか。

 

シャモを買ってきてくれ

 慶応3年(1867)11月15日。現在の暦(こよみ)でいえば、真冬の12月10日。凍えるような寒さだった。夕闇せまる京都・四条の醤油商「近江屋」の屋内も、相当冷えたに違いない。坂本龍馬は、その2階の「ウナギの寝床」のように長く延びた一番奥の八畳間で火鉢のそばに身を寄せ、ひとり座っていた。

 夕方5時ごろ。龍馬のもとを、同志の中岡慎太郎が訪ねてきた。龍馬は北側の床の間を背にし、火鉢を間にはさみ、南に座った中岡と語らった。床の間には愛刀が置いてある。そこへ、しばらくして峰吉(みねきち)が来た。彼は近所の本屋のせがれで、中岡の小間使いをしていた。少し遅れ、土佐藩士の岡本健三郎も姿を見せた。

 ひとしきり4人で話し終えた午後7時か8時ごろ。「腹が減った。軍鶏(シャモ)を買うてきてくれ」と龍馬が峰吉にいう。夕食に、温かい軍鶏鍋を振る舞おうというのである。「一緒に食おう」と言われて中岡は残り、岡本は「他に用がありますから」と言って座を立った。

 岡本と峰吉が一緒に出ていき、龍馬の用心棒を務める下僕の藤吉(とうきち)が戸を閉める。あたりが静寂に包まれ、しばらくした頃、近江屋に近づく一団があった……。

 

両陣営に援助を行う要注意人物

 この一団、龍馬を斬るために、幕府側の人間が送り込んだ刺客である可能性が高い。その理由を、長くなるが説明しよう。

 ちょうど一月前の10月15日、大政奉還があった。江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜が朝廷に対し、大政(政治権限)を奉還(返上)した事件である。これによって、江戸幕府は消滅し、264年間という長い歴史にピリオドを打った。その後押しをしたメンバーのひとりが龍馬だった。

 黒船来航以来、幕府の威信は低下し、逆に天皇=朝廷の権威が高まっていた。反幕府勢力である長州藩や「薩長同盟」で手を組んだ薩摩藩などは、武力によって幕府にトドメを刺そうと目論んでいたのである(武力討幕)。

 しかし、薩長ら武力討幕派の諸藩と幕府が戦争になれば、多くの血が流れ、日本進出を企む諸外国に付け入る隙を与えてしまう。それを防ぐ手立てが「大政奉還」であった。つまり平和裏に幕府が政権を手放すことで、戦争を避けるという手段だ。

 とはいえ、いきなり政権を朝廷に返しても、当時の朝廷には政治を取り仕切る能力はない。よって、それまで通り慶喜をトップとした政治体制が続き、徳川政権は維持された。挙兵の機会を待っていた武力討幕派は「やはり徳川を完全に潰さねば」と息巻いた。

 一方で龍馬は、徳川を完全には潰さず、政権に留めたうえで、各諸侯の連合で新政権を作ろうという「公議政体論者」であったとされている。その証拠に、龍馬は暗殺の2~3日前、幕府側の重鎮と面会し、今後の体制について何度も話し合っている。

 それでありながら「もし、武力討幕の流れになれば」と、オランダから買い付けた銃を土佐藩へ秘密裏に輸送した。さらに、薩摩・長州・土佐各藩の武力討幕派とも連絡をとりあっていた。世の中がどう転んでもいいよう、周到な根回しをしていたのだ。

 つまり龍馬は、幕府側から見れば、「討幕」を狙うテロリストであり、討幕派からは「徳川に味方しているのでは?」と疑念を抱かせる存在だった。秘密裏に活動していたため、どの勢力からも要注意人物としてマークされがちな立場だったのである。

 

最大の伏線となった「寺田屋襲撃」事件

 では、なぜ犯人が幕府側の人間である可能性が高いのか?

 その理由の1つに、… 続きを読む

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上永 哲矢

上永 哲矢

歴史コラムニスト、紀行家

日本史・三国志を題材に各種雑誌やウェブに連載記事多数。歴史取材の傍ら、城や温泉に立ち寄ることが至上の喜び。著書に『高野山 その地に眠る偉人たち』(三栄書房)、『三国志 その終わりと始まり』(三栄書房)、『ひなびた温泉パラダイス』(山と溪谷社)。神奈川県横浜市出身。公式サイト:http://kakutei.cside.com/job/

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