1970年代に誕生した「将棋AI」は、徐々に強くなっていったものの、しばらくの間、プロ棋士に勝てなかった。

 そのブレイクスルーとなったのが、2000年代に誕生した「ボナンザ」である。ボナンザは、すべての候補手から次の手を選ぶ「全数探索」と、ゲームの局面の形勢判断を点数として出力する「評価関数」を機械学習で作成する機能を備えていた。後に「ボナンザメソッド」と名付けられるこの方式の採用により、将棋AIの実力はプロ棋士を上回るようになった。

 将棋AIは、プロ棋士たちとどのように打ち勝ち、そしてプロ棋士たちは、人間をも越える実力を持った将棋AIとどのように向き合っているのだろうか? 公立はこだて未来大学の松原仁教授が解説する。

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AIよりも人間にハンデが与えられる時代が到来

 機械学習で評価関数を作るようにしたボナンザの登場以降、将棋AIは一気にプロ棋士のレベルに達した。ボナンザの方法はボナンザメソッドと名付けられて、ほとんどすべての将棋AIで採用されるようになった。

 2007年にボナンザは、渡辺明竜王と公開対局を行なった。ボナンザが負けはしたものの、途中までは善戦した。2000年には情報処理学会の50周年記念イベントとして、「劇指」、「ボナンザ」、「GPS将棋」、「YSS」という4つの将棋AIの合議制の「あから2000」が清水市代女流王将に勝利した。

 2013年にニコニコ動画で、プロ棋士5人と将棋AI5つとの「電王戦」シリーズが始まって、将棋AIが3勝1敗1引き分けで勝利した。男性の現役プロ棋士にコンピュータが勝ったのはこのときが最初である。特に上位棋士の三浦弘行九段に、GPS将棋が勝ったことは衝撃的なニュースになった。

 次からはルールが一部変更になって、将棋AIは対局の一定期間前にプログラムを固定して、それ以降改良しないこと、固定した将棋AIをあらかじめ対局相手のプロ棋士に提供して、事前練習をさせることになった。この変更は事実上、人間側にハンディを与えたものである。

 2014年の電王戦は4勝1敗で将棋AIが勝ち越したが、2015年はプロ棋士側が十分に事前対策をしたかいがあって、3勝2敗でプロ棋士が勝ち越した。トップレベルのタイトル保持のプロ棋士との対局は2007年以降実現していなかったが、情報処理学会はこの時点ですでに将棋AIの実力はトップレベルのプロ棋士を超えた(対局すれば勝ち越す)と判断して、2015年にトップレベルのプロ棋士に勝つ将棋AIを開発プロジェクトの終了宣言を行なった(結果的にこの宣言は正しかったと思われる)。

 その後電王戦は、プロ棋士の予選を勝ち抜いた人と、その年のトップの将棋AIが2局対戦する形に変更された。2016年には将棋AIのポナンザが山崎隆之八段に2連勝し、2017年には同じくポナンザが佐藤天彦名人に2連勝した。名人は将棋界で最も権威のあるタイトルなので、そのタイトル保持者に将棋AIが勝ったことで、人間とコンピュータの対決の決着はついたことになる(これで電王戦も終了した)。

 

人間とコンピュータが対決する時代は終わった

 将棋AIがボナンザ以降に急速に強くなったのは、… 続きを読む

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松原仁

松原仁

公立はこだて未来大学副理事長兼システム情報科学部教授

株式会社未来シェア社長。人工知能、ゲーム情報学、知的交通システムなどの研究に従事。編著書に「将棋とコンピュータ」、「コンピュータ将棋の進歩」、「先を読む頭脳」など。前人工知能学会会長。将棋アマ5段。

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