AIの進化を辿る(第1回)

そもそも、なぜ将棋のAIが生まれたのか?

2017.11.22 Wed連載バックナンバー

 2017年はAI(人工知能)が注目された年であったが、特に話題になったのが「将棋」のAIである。

 6月、14歳の最年少プロ棋士である藤井聡太四段が、公式戦29連勝を達成し、約30年ぶりに歴代最多連勝記録を更新した。この藤井四段の強さの裏に、将棋AIによって独自のスタイルを確立したことがあると、テレビや新聞がこぞって報じた。

 将棋AIは今やプロ棋士を負かすほどの実力を持っている。プロ棋士とコンピューター将棋が対戦する「電王戦」では、2016年、2017年ともプロ棋士は勝っていない。

 将棋AIはいかにして、プロ棋士に勝ち、プロ棋士に新たなスタイルを確立させるほどの存在になったのか。その“進化”の歴史を、将棋AIを黎明期から見てきた公立はこだて未来大学の松原仁教授が語る。


 

チェスAIがAIのスタートだった

 思考ゲームはAI研究の優れた例題である。ルールが明確である、勝ち負けによって評価ができる、目標とすべき強い人間が存在する、面白い、など優れた性質を有しているからである。

 そもそもAIの研究自体が、チェスの強いプログラム、すなわちチェスAIを作ることから1950年ごろに始まったのである。チェスに強いことは西欧では高度な知能を持っていることの象徴(たとえばゲーテがその趣旨のことを言っている)なので、そのチェスで人間に勝つことができれば、コンピュータに高度な知能が持てることの証明になると考えたのである。

 1950年前後、チューリングとシャノンがAIのきっかけとなる論文を発表して、チェスAIの研究開発を呼び掛けた。チューリングは、チューリング機械やチューリングテストなどで、シャノンは情報理論でよく知られるコンピュータ科学の研究者である。彼らの呼びかけに応じた形でAI研究を始めた若手は、ほぼみんながチェスAIを手掛けることになった。

 その若手の一人であったマッカーシーは、のちになって「チェスはAIのハエであった」と称した。遺伝学がハエを研究の題材として大きな進歩を遂げたように、AIはチェスを題材として大きな進歩を遂げたことを示したものである。

 そのチェスAIはなかなか強くならなかったが、ハードウェアの進歩とソフトウェアの工夫とによって、1997年にIBMのディープブルーというチェスAIが、世界チャンピオンのカスパロフに勝利した(ディープブルーは将棋AIや囲碁AIと異なり機械学習を使っていない)。

 

日本ではゲームのAIの研究は長い間できなかった

 チェスと将棋は、敵の最も大事な駒(チェスではキングで将棋では玉)を詰ますことを目標とした似たゲームである(ともにインドのチャトランガというゲームが起源と言われている)。

 その大きな違いは、… 続きを読む

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松原仁

松原仁

公立はこだて未来大学副理事長兼システム情報科学部教授

株式会社未来シェア社長。人工知能、ゲーム情報学、知的交通システムなどの研究に従事。編著書に「将棋とコンピュータ」、「コンピュータ将棋の進歩」、「先を読む頭脳」など。前人工知能学会会長。将棋アマ5段。

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