Bizコンパス

川内優輝に学ぶ、練習量を減らしてもスキルアップする方法
2019.05.17

小山宣宏の「勝利の裏にあるもの」第33回

川内優輝に学ぶ、練習量を減らしてもスキルアップする方法

著者 小山宣宏

 埼玉県庁職員という安定した職とマラソンランナーの「二足のわらじ」で注目される人物といえば、川内優輝だ。

 公務員として働きつつ、有給休暇を活用しながらアマチュアランナーとして活動を行ってきた川内だが、その実力はアマのレベルにとどまらない。世界陸上やアジア大会など国際大会で実績を残しており、2018年にはボストンマラソンで、日本人としては瀬古利彦以来となる31年ぶりの優勝という快挙も成し遂げた。

 2019年4月からは、埼玉県庁を退職し、あいおいニッセイ同和損保所属のプロランナーに転向。2012年ロンドン五輪、2016年リオ五輪では叶わなかった、オリンピック出場の夢を実現すべく、公務員時代以上にマラソンに集中する日々を送っている。

 しかし、彼は決してエリートランナーではなかった。それにも関わらず、どうやって実業団選手に負けないスキルを身につけていったのか。「史上最強の市民ランナー」と呼ばれるまでにいたった、川内優輝のステップアップの秘訣をひも解いていきたい。

 

週2日、朝練すらない「ゆとり」の練習で才能が花開く

「来年4月から公務員を辞め、プロランナーに転向しようと思っています」

 日本人として31年ぶりにボストンマラソンを制し、2018年4月19日、成田空港に帰国した直後の記者会見で、川内はこう宣言した。

 だが、彼は決して、昔からマラソンランナーとして能力が抜きんでていたわけではない。

 彼は春日部東高校、学習院大学と、学歴こそエリートだが、ランナーとしてはまったく逆の、落ちこぼれだった。

 高校時代は毎日の厳しい練習についていけず、走り込みをすればすぐにケガに見舞われ、全国高校駅伝や高校総体などの大きな舞台での活躍はゼロ。本人曰く、当時は「強豪校、強豪大学、実業団という『日本型エリートランナー養成システム』からはじかれたという劣等感があった」と言う。

 大学の陸上部も決して強豪とは言えなかったが、川内は「雰囲気の良さがいい」と、明快な理由で入部を決意する。

 この判断が、彼にとって思わぬ成果をもたらした。

 学習院大学ではスピードを向上させる練習よりも、「一定のスピードを保つ」中間力走を練習の軸に置いていた。激しくきつい練習は強豪校に比べるとはるかに少なく、走り込みは週2日だけで、朝練すらない。

「大学は高校よりもハードな練習をするものだ」と先入観を持っていた川内にしてみれば、想像を裏切るほどのあまりにも軽い練習に、「えっ、今日はもう終わりですか?」と、拍子抜けする日々の連続だった。

 ところが肉体的にも精神的にもゆとりのある練習をしていたにもかかわらず、学習院大学での練習を通して川内は、高校時代とは比べものにならないほどランナーとして格段に成長することができた。大学2年と4年のときには、学連選抜として箱根駅伝に出場し、6区を任されるまでにスキルが向上していったのだ。

 

大学時代に学んだ2つのこと

 大学4年間の経験から、川内は2つのことを学んだ。

 1つは「オーバートレーニングをしないこと」である。

 それまでマラソンの練習は「とにかく距離を走る」ものだと思い込んでいた川内だったが、学習院大学での練習方法を通じて、少し物足りなく感じるくらいの、「腹八分目の練習」のほうが効果的であることを、身をもって知ることができた。

 2つ目は… 続きを読む… 続きを読む

続きを読むには会員登録が必要です

小山宣宏

小山宣宏

スポーツジャーナリスト

1973年千葉県出身。出版社、編集プロダクション勤務を経て、2007年に独立。近年は高校野球やプロ野球を中心とした取材・原稿が多い。『実は大したことない大リーグ』(江本孟紀/双葉社)、『日本人投手がメジャーで故障する理由』(小宮山悟/双葉社)、『名将の条件』(野村克也/SBクリエイティブ)、『3000安打の向こう側』(松井稼頭央/ベースボール・マガジン社)などの書籍を手掛ける。

関連キーワード

SHARE

あなたへのおすすめ

「コーチング」で部下と良好な関係を築く方法

2017.10.25

これからは「上下関係」ではなく「協働関係」

「コーチング」で部下と良好な関係を築く方法

部下が自発的に働く「母のようなマネジメント」とは

2017.08.26

職場の“ギクシャク感”を解消する部下との接し方

部下が自発的に働く「母のようなマネジメント」とは

オランダでは上司が部下の調整役に徹する

2017.07.03

海外に学ぶ、生産性の高い働き方

オランダでは上司が部下の調整役に徹する

部下を平気で潰す「クラッシャー上司」の特徴とは?

2017.05.09

クラッシャー上司になってはいけない第1回

部下を平気で潰す「クラッシャー上司」の特徴とは?