今、世の指導者には考え方の変革が求められている。スポーツの世界、とりわけ高校野球とプロ野球の世界では、どのように考え方を変えて選手たちを指導しているのだろうか。その実態に迫ってみた。
「愛のムチ」って何だろう?
2018年のスポーツ界では、指導者と選手の間であってはならない不祥事が続発した。女子レスリングに端を発し、アメリカンフットボール、ボクシング、大学駅伝、女子アイスホッケーと、似たような理由で組織のトップや指導者が立て続けに辞任した。
指導者から選手に対する言葉の暴言、ひどいものになると身体を殴るというものもあったが、いずれのケースも指導者が「愛のムチ」だと言ってはばからなかった。
「いったい愛のムチってなんだろう?」そう疑問に思う人も多いはずだ。
学生時代、体育会系の部活動に入っていた人の多くは、指導者から叱責、あるいは鉄拳制裁を受けた経験があるのではないだろうか。
こうした経験が記憶に残り、自らが指導者となったときに、同じような指導をしてしまう。これが「負の連鎖」となり、ここに来て大きな問題へと発展してしまったわけだ。けれども今のスポーツの現場では、考え方を改めて「選手に合った指導」を行っているケースも多々ある。
「金八先生」「スクール・ウォーズ」の時代は終わった
私は「甲子園優勝校監督が教える 勝てるチームの作り方」(芸文社)、「参謀論」(橋上秀樹/徳間書店)の書籍制作のため、昨年末から今年にかけておよそ3ヵ月の間、甲子園で優勝経験のある5つの高校を訪問した。龍谷大平安(龍谷大付属平安高校、京都)、日大三(日本大学第三高校、東京)、前橋育英(群馬)、花咲徳栄(埼玉)、帝京(東京)という名門校を率いる監督たちから、指導法について話を訊くためだ。さらに後日、プロ野球の現役コーチからも、同様のテーマで話を聞いてみた。
そこで分かったのは、「今の選手たちに合わせた指導」が確立されつつあることだった。
たとえば花咲徳栄高校(2017年夏の甲子園で優勝)の岩井隆監督は、今の高校生についてこう話す。
「今の子どもたちは、スパルタ式の教育はおろか、親からきつく叱られたという経験すらない。そんな彼らを私は『パーソナライズで育ってきた子ども』だと理解しているのです。私たちの世代は集団意識が強かったのに対して、彼らは集団よりも個人を大事にするあまり、周りに気を使わないという特徴がある。
スパルタ式で育った世代にしてみれば、今の子どもたちには手を焼いてしまい、どう接していいのかわからないことも多々あります。そこで『この子たちはパーソナライズな考えを持った子どもなんだよな』と一歩立ち止まって考えることで、これまでとは違った指導ができると考えています」

かつての「金八先生」や「スクール・ウォーズ」のように、指導者が手取り足取り教えるやり方は、今の時代には通用しない。岩井監督は「この子たちを観察して、サポートしてあげよう、という考え方でないと選手たちはついてこないのです」と、話す。
現代の指導者は「今までの指導方法が通用しないのはなぜなんだ」と嘆くのではなく、… 続きを読む