第95回東京箱根間往復大学駅伝競走(以下箱根駅伝)で総合優勝を飾ったのは東海大学だった。本命と言われた青山学院大学、往路を制した東洋大学の戦いぶりについて、あらためて振り返り、青学大の敗戦について分析してみた。

 

空回りした「ゴーゴー大作戦」

「絶対王者」がついに陥落した。学生3大駅伝と言われる出雲駅伝(以下出雲)、全日本大学駅伝(以下全日本)を連勝し、史上初となる2度目の三冠、史上3校目となる箱根駅伝の5連覇は幻に終わった。

 青山学院大学(以下青学大)の原晋監督(以下原)は、昨年の12月10日に全23チームの監督が居並ぶ公式会見で、「ゴーゴー大作戦で臨む」と発表。「駅伝部の監督に就任して15年目。箱根駅伝が95回目。ポイントは『5区』。マークするチームはナンバーカード『5』の東海大学。覚悟(かく『ご』)を持って5連覇に挑戦する」という意味合いから命名された。

 今の4年生は、箱根で負けた経験が一度もない。「勝って当然」のプレッシャーは、原自身はもとより、選手たちだって間違いなく感じていたはずだ。そこで「ゴーゴー大作戦」というユニークなネーミングで、選手をプレッシャーから解放しようとした。

「アクシデントさえなければ勝てる」、そう言い切った原――。だが、現実は違った。往路で奮闘したのは東洋大学(以下東洋大)だった。

 1区では西山和弥(2年)が、現マラソン記録保持者である大迫傑(現ナイキ)以来となる2年連続1区での区間賞を獲得した。3区で青学大にいったん首位を許しつつも、4区の相沢晃(3年)が1時間0分54秒の区間新記録で再逆転に成功。この時点で2位の東海大学(以下東海大)に2分48秒、3位の青学大に3分30秒の差をつけた。

 箱根駅伝の4日前、原は「東洋大が首位を走っていたとしても、2分以内の差で5区に入れば逆転できる」とメディアに話していた。つまり、「東洋大が首位にいる」ことは織り込み済みだった。

 だが誤算は、「3分30秒」の想定以上の差がついたことだ。

 4区を走った青学大の岩見秀哉(2年)は、これが箱根駅伝の初出場だった。「今大会のキーマン」と公式会見で原監督が名前を挙げるほど期待していたが、首位争いの厳しい場面での駆け引きでは、経験豊富な東洋大の相沢のほうが一枚も二枚も上だった。結果、終盤は低体温症に陥り、区間15位と低迷した。

 青学大の誤算はさらに続く。5区の竹石尚人(3年)が山登りの序盤で足がけいれんし、区間13位。往路のゴールにたどりついたときには、首位の東洋大に5分30秒差の6位に沈んだ。

 

「その1秒をけずりだせ」というスローガンが生み出された背景

 往路優勝した東洋大の陸上競技部には「その1秒をけずりだせ」というスローガンがある。一読すると根性論の印象が強いが、過去の苦い思い出が作り出した言葉だ。

 今から8年前の2011年の第87回大会。東洋大は09年に箱根駅伝初優勝を飾り、翌年10年も連覇、11年には3連覇を目指していた。大会では往路で見事に優勝を飾り、「このまま行けば復路も勝って、3連覇できる」、多くの関係者がそう見ていた。

 だが、復路では山下りの6区で早稲田大学(以下早大)に抜かれてしまう。その後は東洋大が追う展開となって、10区でタスキを受け取った時点で、その差は40秒。勝負の行方は最終ランナーに託された。

 鶴見から品川、新橋、有楽町、日本橋……と距離を追うごとに、その差が少しずつ縮まっていく。あと少し、もう少しで逆転できる――。だが先に大手町のゴールを駆け抜けたのは、早大だった。

 その差はわずか21秒――。

 21秒という差は、箱根駅伝史上、もっとも僅差での2位となった。10人のランナーひとりずつに換算すると、2・1秒。もし1区から9区の選手たちが、あと3秒早く走っていたら――。そう考えると、悔やんでも悔やみきれない苦い敗戦となった。

 2009年3月から東洋大の駅伝監督に就任した酒井俊幸(以下酒井)は、忘れられない敗戦から数日後。酒井は部員全員を鼓舞するために、このときの模様を短くまとめたものを全員に鑑賞させた。

 すると、1区から10区を走ったランナー全員から、「自分があと何秒かがんばれば、勝てたかもしれない」という言葉が口々に出てきた。

 わずかな差を、1人1人が削っていこうという意気込みが凝縮された言葉。こうして、「その1秒をけずりだせ」というスローガンは生まれた。

 そして1年後の2012年箱根駅伝――。この言葉を部員全員が噛みしめ、練習を積み重ねた結果、見事に往路・復路で優勝。総合優勝を勝ち取った。しかも4人が区間賞を獲得し、10時間51分36秒の驚異的な大会新記録を樹立。2位の駒澤大学に9分2秒の差をつけての圧勝だった。

 

選手の能力をフルに発揮させることに腐心した東洋大・酒井監督

 酒井が32歳のときに東洋大駅伝部の監督に就任してからの箱根駅伝の成績は、2018年までの9年間で、総合優勝3回、2位3回、3位1回と、素晴らしい成果を残している。

 その指導方法は… 続きを読む

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小山宣宏

小山宣宏

スポーツジャーナリスト

1973年千葉県出身。出版社、編集プロダクション勤務を経て、2007年に独立。近年は高校野球やプロ野球を中心とした取材・原稿が多い。『実は大したことない大リーグ』(江本孟紀/双葉社)、『日本人投手がメジャーで故障する理由』(小宮山悟/双葉社)、『名将の条件』(野村克也/SBクリエイティブ)、『3000安打の向こう側』(松井稼頭央/ベースボール・マガジン社)などの書籍を手掛ける。

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