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ニューヒロインが続々登場、日本フィギュアスケートの強さとは
2018.12.19

小山宣宏の「勝利の裏にあるもの」第23回

ニューヒロインが続々登場、日本フィギュアスケートの強さとは

著者 小山宣宏

宮原、坂本、そして紀平…女子フィギュアはタレント揃い

 オリンピック、世界選手権と並んで「フィギュアスケートの3大大会」の1つと言われる「グランプリファイナル」。カナダ、アメリカ、フィンランド、日本、ロシア、フランスの6ヵ国を転戦した、グランプリシリーズの成績上位6名だけが、ファイナルに進出できる、まさに世界最高峰の頂上決戦だ。

 この大会に、女子では宮原知子、坂本花織、紀平梨花の出場が決まり、平昌オリンピック・金メダリストのアリーナ・ザギトワを筆頭とするフィギュア大国のロシア勢3選手と対峙した。

 結果、紀平がショートプログラム(以下SP)で今シーズンの世界最高得点となる82.51点、フリースタイル(以下FS)で150.61点のトータル233.12点で、見事に優勝した。

 2017年4月に浅田真央が引退したときには、「今後の女子フィギュア界はどうなるか」などと、一部のメディアから不安視する声が上がったが、そんなことはどこ吹く風と言わんばかりに、女子選手の活躍が続いている。

 そのうえ、グランプリファイナルに出場した3選手はもとより、三原舞衣、樋口新葉、本田真凜、白岩優奈、本郷理華、山下真湖と、上は20代前半、下は10代後半まで、幅広い人材が揃っている。

 彼女たちは、たまたま世界の並みいる強豪を押しのけて活躍できているのではない。優秀な人材を輩出するだけのシステムが、日本フィギュアスケート界には存在しているのだ。

 

すべては伊藤みどりの銀メダルから始まった

 日本がフィギュアスケートの強化に本腰を入れだしたのは、1992年7月のこと。長野県の野辺山高原で「全国有望新人発掘合宿」が、3泊4日の日程で始まった。この年の2月、アルベールビル・オリンピックで、伊藤みどりが銀メダルを獲得した5ヵ月後のことである。

 当時の城田憲子・強化副部長(現・ANAスケート部監督)は、「才能さえあれば、オリンピックの表彰台の真ん中に立たすことができる」と考えていた。しかし、天賦の才を持った伊藤ですら、金メダルに届かなかった。

 このときの悔恨の念から、城田副部長は選手の能力に頼るのではなく、育成を支える裏方がサポートすること、さらに優秀なコーチや振付師の人脈を築いていくことで、選手を正しい方向に導いていけると考えた。その強化の取り組みの第一歩が、先に挙げた全国有望新人発掘合宿である。

 場所を野辺山にしたのと、開催時期を7月にしたのは理由がある。1つは、野辺山高原には帝産アイススケートトレーニングセンターのスケートリンクが使用できることがわかっていたこと。もう1つは、参加者を小学生に限定したため、夏休み中がいいと考えたからだ。

 スケーティングの基礎は、7歳から10歳までに確立すると言われている。そこで合宿では、身体能力のテストを実施して、「身体的なバランス感覚」「1つ1つのスケーティングの大きさ」「腰の高さを変えずに滑ることができるかどうか」をチェックした。身体的なバランス感覚が養われていないとケガが多くなるし、一蹴りが大きくなければ美しいスケーティングは完成しない。さらに難易度の高いジャンプの成功には、腰の高さの安定は欠かせない。

 さらにもう1つ、「身体全体が“鉛筆状”で細いか」、つまり体型のチェックである。体型はジャンプの回転軸に大きく影響してくる。城田副部長は、「いい」と思った子どもがいたら、親の体型をチェックして、将来太らない体型であるかどうかも、つぶさにチェックしていた。

 これは決して珍しいことではない。ロシアでは、祖父母の代までさかのぼって、遺伝的に太っている人がいないかどうか調べるという。ただ、日本に限って言えば、そこまで厳しく選定されることはなく、小学生の時点ではスケーターとして完成している必要はなく、粗削りでも将来性を感じさせるだけでも十分と見なしている。

 この全国有望新人発掘合宿の一期生のひとりが、2006年のトリノ五輪・女子シングルで金メダルに輝いた荒川静香である。安藤美姫、浅田真央、羽生結弦といった名選手も、この合宿に参加した経験を持つ。特に浅田真央は、参加前から評判が高く、圧倒的な実力を持っていたという。

 現在も合宿は毎年開催されており、合宿で“優秀”と判定された選手は、全国大会や国際大会への出場機会が与えられる。つまり、素質の高い選手を見抜き、成長する機会を与えることで、その才能をさらに伸ばそうとする確かな狙いがあるのだ。

 

フィギュア界では選手が指導者を選ぶ

 こうして日本スケート連盟による強化プログラムが推進されていくと、やがて… 続きを読む… 続きを読む

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小山宣宏

小山宣宏

スポーツジャーナリスト

1973年千葉県出身。出版社、編集プロダクション勤務を経て、2007年に独立。近年は高校野球やプロ野球を中心とした取材・原稿が多い。『実は大したことない大リーグ』(江本孟紀/双葉社)、『日本人投手がメジャーで故障する理由』(小宮山悟/双葉社)、『名将の条件』(野村克也/SBクリエイティブ)、『3000安打の向こう側』(松井稼頭央/ベースボール・マガジン社)などの書籍を手掛ける。

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