9月に行われた女子テニスの全米オープンで、大坂なおみが日本勢として初めて「4大大会シングルス制覇」を果たした。快挙を成し遂げた彼女を、陰になり日向になり支え続けたサーシャ・バインコーチの指導法について分析してみる。

 

大坂なおみが抱えていたメンタルの問題とは

 全米オープン決勝の相手は、大坂の憧れでもあり、目標としていたセリーナ・ウィリアムズ。4大大会(全豪、全仏、ウィンブルドン、全米)での優勝23回を誇る女子シングルスきっての実力者だ。そんな相手を2-0のストレートで押しのけて勝ったのだから、日本のみならず、世界中が驚き、称賛した。

 だが、彼女がここにいたるまでの道は決して順風満帆ではなかった。相手というより、「自分の心との戦い」を強いられてきた。

 大坂は1997年10月に大阪市で生まれた。幼い頃にテレビで全米オープンを戦うセリーナの姿にくぎ付けとなった。「自分がテニスを始めたのは、彼女みたいになりたいと思ったから」とまで言い切り、父から指導を受け、1つ年上の姉と一緒にテニスボールを追いかけた。

 そして4歳の時、アメリカに渡った。だが、名門のテニススクールには入らず、公園や公営コートで父が指導し続けた。ただし、父にはテニス歴はない。おそらく独学で娘2人を指導していたのだろう。この点からも、大坂はテニスに関してエリート教育は受けていなかったのが分かる。

 しかし、大坂には夢があった。「いつかセリーナと同じコートで、最高の舞台で戦いたい」――その第一歩となるべく、彼女は2013年にツアーデビューを果たした。

 ところが、待っていたのは数多くの挫折だった。強打で相手を押すものの、持久戦になると決まって自滅。そのたびに感情をコントロールできなくなり、一方的に敗れていった。

 当時の大坂と対戦したことのある日本人選手は、彼女をこう評していた。

「彼女はたしかに技術、パワーともに他の選手よりも優れている部分はたくさんある。けれども、打ち合いになれば、決まって自分からミスをしてくれた。ときには『えっ、ここは無理をするところじゃないよ』という局面でも、強引になって失敗してくれた。それで嘆き、落ち込むというのが彼女の負けるときのパターンだった」

 大坂は2016年の全豪オープンを皮切りに4大大会に出場。だが、プレーの粗さを克服できずに、伸び悩んだ。大坂の2016、17年の4大大会での成績は次の通りだ。

【2016年】
全豪オープン:3回戦敗退、全仏オープン:3回戦敗退、
ウィンブルドン:出場せず、全米オープン:3回戦敗退

【2017年】
全豪オープン:2回戦敗退、全仏オープン:1回戦敗退、
ウィンブルドン:3回戦敗退、全米オープン 3回戦敗退

 3回戦までは進むものの、「4回戦進出の壁」だけはどうしても超えられずにいた。

 そのために必要なのは、「安定したメンタルを身に着けること」――。だが、メンタルをコントロールすることは、時間がかかる。経験から得ることもあれば、指導者の言葉によってその重要性に気づくこともある。いい指導者と巡り合うこと――それが彼女に課せられた最大のミッションだった。

 

トッププレーヤーの「練習相手」が抱える苦悩

 4大大会で3回戦の壁が越えられない――停滞する大坂のテニスを変えたのが、今のコーチであるサーシャ・バインとの出会いだった。2017年12月のことである。… 続きを読む

全文(続き)を読む

続きを読むにはログインが必要です。

まだ会員でない方は、会員登録(無料)いただくと、続きが読めます。

小山宣宏

小山宣宏

スポーツジャーナリスト

1973年千葉県出身。出版社、編集プロダクション勤務を経て、2007年に独立。近年は高校野球やプロ野球を中心とした取材・原稿が多い。『実は大したことない大リーグ』(江本孟紀/双葉社)、『日本人投手がメジャーで故障する理由』(小宮山悟/双葉社)、『名将の条件』(野村克也/SBクリエイティブ)、『3000安打の向こう側』(松井稼頭央/ベースボール・マガジン社)などの書籍を手掛ける。

関連キーワード

連載記事