違法賭博問題による出場停止処分が解け、昨年5月から競技へ復帰したバドミントン界のエース桃田賢斗が、今年に入り目覚ましい復活劇を見せている。8月にはバドミントン世界選手権、9月11~16日のジャパン・オープンで、いずれも男子シングルスで優勝を遂げた。

 一度は奈落の底に突き落とされながらも、大きく成長できたのはなぜなのか。復活、そして飛躍のプロセスを見ていく。

 

完全アウェーの状態でつかみとった「世界一」

 まさに圧巻だった。

 8月5日、中国の南京で行われたバドミントン世界選手権の男子シングルス決勝で、第6シードの桃田は第3シードの石宇奇(中国)を21-11、21-13で破り、日本男子初の金メダルを獲得した。

 中国の選手にしか声援が飛ばない完全アウェー状態。だが、「気持ちで諦めちゃいけない」と逆境をものともせず、まさに「心を安定させること」によって、勝利をたぐり寄せた。

 勝利が決まった瞬間、桃田はユニフォーム左胸の日の丸に、そっとキスをした。表彰台の中央で君が代を聞き、感慨深くなった。

「もう一度、チャンスを与えてくれた、日本の方々への感謝の気持ちは忘れません」――。

 彼は間違いなくバドミントンの「天才」だった。その才能があまりにも偉大過ぎたがゆえに、「大きな過ち」を犯してしまったものの、あるきっかけから「改心」し、見事に復活する。

 

父の希望とは裏腹に、バドミントンにのめりこんでいく

 桃田は1994年9月に香川県で生まれた。「賢斗」という名前は、グローバルな時代に対応し、外国人から呼びやすく世界で一番強い人になるようにと、映画『スーパーマン』の主人公である「クラーク・ケント」から名付けられた。

 そして、父の「息子にはプロ野球選手になってほしい」という願望もあって、小学1年生からバドミントンを始める。実はこの方法、第11回「メジャーでも、大谷翔平が活躍できた『3つの力』」でも述べたが、バドミントンのラケットで腕を振ると、肩の可動域が広がるという効果が得られる。桃田の父も、それを念頭に置いて指導していたのだろう。

 しかし、父の期待とは裏腹に、当の本人はバドミントンの魅力にハマっていく。小学校の同年代の大会で日本一に輝いた彼が進学先に選んだのは、生まれ育った香川県内の中学校ではなく、遠く離れた福島県の富岡町立富岡第一中学だった。ここは県立富岡高校との中高一貫で、バドミントンのスキルを向上させる環境があった。それが桃田の目には魅力に映ったのだ。

 進学後、彼のバドミントンの腕はメキメキ伸びていった。中高一貫ということもあって、中学の早い段階で高校生のなかに交じって練習できたことも大きかった。年齢が上の先輩たちを相手に負けても悔しがるだけでなく、負けず嫌いの性格によって、「勝つためのスキル」を身につけていく。

 その成果は早くも現れた。中学2年生のときに全日本ジュニア新人の部で優勝すると、翌年は団体、シングルスの両方で頂点に立った。そして高校に進学してからも飛躍的に成長を遂げ、3年生になったときの7月に開催されたアジアユースU19で見事に優勝。IHシングルス、世界ジュニアも制覇した。高校までに桃田が歩んだバドミントン人生は、まさに栄光に包まれた歴史だった。

 そして高校卒業後は、バドミントン界で輝かしい実績を残す名門・NTT東日本へ入社した。

 

名門で実績を積み上げる

 NTTバドミントン部は、1955年に「電電東京バドミントン部」として発足し、現在まで60年以上の歴史を誇る。1985年に日本電信電話公社の民営化により、チーム名を「NTT東京」に変更、1999年のNTTの再編成に伴い、チーム名を「NTT東日本」に変更し、今に至る。

 日本リーグにおける過去の成績は、優勝19回(10連覇含む)、準優勝10回。全日本実業団大会では、優勝29回(15連覇含む)、準優勝33回の輝かしい成績を収めている。今なお日本のバドミントン界をけん引する企業チームだ。

 桃田はここでレベルの高い仲間と切磋琢磨して技術を磨き、数多くの好成績を残していく。入社1年目の2013年に全日本社会人バドミントン選手権に初出場して初優勝を飾ると、翌年5月には団体戦の世界選手権として知られるトマス杯に出場し、シングルス5試合すべてに勝って日本の初優勝に貢献する。

 2015年はBWFスーパーシリーズの男子シングルス、インドネシアオープンスーパーシリーズプレミア、全日本選手権、さらには、スーパーシリーズファイナルズのシングルスでいずれも初優勝。さらに2016年4月に開催されたインドオープンでも優勝するなど快調にキャリアを積み重ねていき、世界ランキングは自己最高となる2位まで躍進した。

 

派手な風貌と私生活、そして転落

 ここまでスラスラ書くと、着実なバドミントン人生を歩んでいるように見える。だが、桃田は… 続きを読む

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小山宣宏

小山宣宏

スポーツジャーナリスト

1973年千葉県出身。出版社、編集プロダクション勤務を経て、2007年に独立。近年は高校野球やプロ野球を中心とした取材・原稿が多い。『実は大したことない大リーグ』(江本孟紀/双葉社)、『日本人投手がメジャーで故障する理由』(小宮山悟/双葉社)、『名将の条件』(野村克也/SBクリエイティブ)、『3000安打の向こう側』(松井稼頭央/ベースボール・マガジン社)などの書籍を手掛ける。

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