今年3月、アテネオリンピックから空前絶後の4連覇を成し遂げた女子レスリングの伊調馨と、コーチだった田南部力氏が、日本レスリング協会の栄和人強化本部長(当時)から、繰り返しパワーハラスメントを受けたとされる告発状が内閣府に提出された。この結果、「パワハラはあった」と認定され、4月、栄氏は責任を取ってその職務を辞した。

 このパワハラ問題、ひと昔であれば一笑に付されたかもしれないが、ビジネスパーソンにとっては他山の石とすべき事件である。

 

あらためて「パワハラの定義」を確認する

 もはや完全降伏するしかなかった。

 日本レスリング協会の福田富昭会長は、「代表として、伊調選手と関係者に、深くお詫びします」と頭を下げた。栄氏が、オリンピック4連覇という偉業を成し遂げた選手に対して、あるいはコーチだった田南部氏にパワハラを繰り返していたなど、世間の誰もが考えていなかったに違いない。

 栄氏や日本レスリング協会はともに告発内容を否定していたが、同協会が設置した弁護士3人による第三者機関が、2008年から今年の3月8日までの10年にわたってのパワハラの有無を、伊調を含めた19人にヒアリングした。その結果、パワハラを認める内容が一部あったとされ、調査のすべてを会見にて発表する運びとなった。

 パワハラに対する認識は、日本は世界に比べて遅れている人が多いといわれている。特に上下関係の厳しい体育会組織のなかで育ってきた人間ほど、自分たちのそれまでの行動や言動が「パワハラにあたる」と思っている人は少ない、いや皆無なのではないかとさえ思えてしまう。

 パワハラの定義についてあらためて説明しておきたい。今から6年前の2012年に厚生労働省は、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える。または職場環境を悪化させる行為」を、「パワーハラスメント」と定義した。そのうえでパワハラを行った者は、不法行為責任に基づく損害賠償責任を負うこととされた。

(職場におけるパワハラについては、同省のホームページ「職場のパワーハラスメントについて」で、6つの典型例が掲載されている。)

 今回のレスリングの問題では、第三者機関が調査して、次の4つが明確に「パワハラである」と認定された。… 続きを読む

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小山宣宏

小山宣宏

スポーツジャーナリスト

1973年千葉県出身。出版社、編集プロダクション勤務を経て、2007年に独立。近年は高校野球やプロ野球を中心とした取材・原稿が多い。『実は大したことない大リーグ』(江本孟紀/双葉社)、『日本人投手がメジャーで故障する理由』(小宮山悟/双葉社)、『名将の条件』(野村克也/SBクリエイティブ)、『3000安打の向こう側』(松井稼頭央/ベースボール・マガジン社)などの書籍を手掛ける。

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