朝ドラのヒロインに学ぶ(第3回)

「漫才」に賭けた、吉本せいの未来戦略

2018.01.17 Wed連載バックナンバー

 NHKの朝の連続テレビ小説『わろてんか』のヒロインのモデルである吉本せい。もともとお笑いの仕事をやりたくて始めたのではなかったが、寄席通いにうつつを抜かし、家業を畳んでせいの実家に居候する夫・泰三の趣味が興じて「第二文藝館」という寄席の経営に乗りだした。当初は困惑して嫌々夫を手伝うせいだったが、やがて天性の商才を発揮。経営を軌道に乗せる。

 その後、寄席を次々に買収して急成長した吉本夫婦は、ついに大阪随一の名門寄席「金澤席(金澤亭)」の買収に成功。多額の借金をしていちかばちかの大勝負だった。その賭けに勝ったせいは、女興行師として世に知られる存在となった。そして、漫才というお笑いの新たなスタイルの確立に挑む。

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「金」と「情」で縛る芸人管理術

 金澤席の買収後も、攻めの姿勢は変わらない。せいはタフなネゴシエイター(※したたかで手ごわい交渉相手)ぶりを発揮して、あちこちの寄席を買収した。

 しかし、傘下の寄席が増えるにつれて、芸人の必要数を確保するのに頭を悩ませるようにもなる。芸人には約束事にいいかげんな輩が多い上、契約という観念が希薄な時代。他所から条件の良い出演依頼があれば、ドタキャンも多々発生する。芸人にとって吉本夫婦は無視できない存在ではあるが、その命令を絶対視するほど服従していない。

「芸人を完全に支配下におく」……多角経営化をさらに推し進めるには、それが不可欠の命題だった。そこでせいは、月給制にして芸人と専属契約を結ぶようになる。その手始めに、美男子で女性にもファンが多い人気落語家・三升家紋衛門(みますや もんえもん)と専属契約を結んだ。月給500円。当時の大卒初任給の10倍近い。庶民の月収と比べたらさらに開きがある破格の待遇だった。

 ここぞという時には大盤振る舞い。それが宣伝効果となり客を呼び込むことは、金澤席買収の経験で知っている。また、破格の待遇に羨望を覚えた他の落語家や芸人たちにも、吉本との専属契約を望む者が増えた。“金の力で縛る”というやり方は、後々までせいが得意とした芸人管理術だ。

 だが、金だけでは不完全であり、完璧を目指すなら心まで縛って心酔させねばならない。そのために、彼女は… 続きを読む

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青山 誠

青山 誠

大阪芸術大学卒業。『坂野惇子 子ども服にこめた「愛」と「希望」』(KADOKAWA)、『戦術の日本史』(宝島SUGOI文庫)、『江戸三〇〇藩 城下町をゆく』(双葉新書)などの著書がある。また、アジア経済の情報誌「BizAiA!」で『カフェから見るアジア』、日本犬雑誌『Shi-ba』での実猟記などを連載中。
(編集:株式会社ネクストアド)

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