いつ仕事するかも、いつまで働くかも、人それぞれなのがオーストラリア流。自分の人生設計をきちんとして、よく働き、よく遊ぶ、そんなオーストラリア流の働き方に迫ります。
早目に引退できるのは「人生の勝ち組」
「フッフッフッ。今度ゴールドコーストに引っ越すことにしたんだよ」
10年来の友人であるデイヴィッドが嬉しそうに電話をしてきた。
「引っ越すって……転勤?」
私の口調は恐るおそるという感じになっていた。
デイヴィッドは某大企業のシドニー地区販売統括マネージャー。日本風に言えば「地区営業統括部長」といったところだろう。執行役員に名を連ねるが、さらに上に行くにはまだまだ多くのライバルがいるという状況。そんな彼が人口460万人以上のオーストラリア最大の都市から、人口60万人程度の州都でもない地方都市のゴールドコースト行きとは……。たとえ支社長になるのだとしても、栄転とは言い難い。
「違う、違う。転勤じゃない。もうリタイアして、いわゆるセカンドライフってやつをあっちで送ることにしたんだよ」
運河沿いの家はすでに買った。向こうに住み始めたらモーターボートを手に入れて、海に出て釣り三昧の日々を送るつもりだと、デイヴィッドはこれからの生活を夢見がちに語る。最近のオーストラリア人ビジネスマンの例に漏れず日本食が大好きな彼が、「獲れたての刺身をごちそうしてやるから遊びに来いよ」と誘ってくれるのは涙が出るほど嬉しい。だが、ちょっと待て。キミはまだ50歳のはずでは……。
「そうだよ。30年近く身を粉にして働いてきて老後の蓄えも充分できた。だから平均寿命から考えて残り30年、楽しく暮らそうと思ってるんだよ」
もちろんデイヴィッドのような人間ばかりではない。いつまでも現役で働きたいと考えるビジネスマンもたくさんいる。だが「いっぱい稼いで、とっとと退職できる」人たちも、この国では一種の「勝ち組」なのだ。

平日夜もチームスポーツを楽しむ人たち
最近日本でもよく聞かれる「ワークライフバランス」という言葉に異を唱えるのは、四十代中盤のエンジニアのジャスティン。だが「ライフ」、つまり人生の愉しみなんてどうでもいいと考える仕事中毒では、もちろんない。「だっておかしいだろ?… 続きを読む