世界遺産条約の正式名称は「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」。かけがえのない文化遺産と自然遺産を守ろうというのが条約の目的だ。
保護を目的とする以上、観光に制約が出るのも当然で、いずれの世界遺産でも観光客に公開されているのはほんの一部。多くは非公開にして管理・保護されている。
たとえば昨年世界遺産に登録された富士山でも、火口内部や吉田胎内樹型、人穴富士講遺跡、小佐野家住宅など非公開の構成資産は少なくない。今年登録された富岡製糸場でも内部が公開されているのは繰糸場の一部と東置繭所くらいのもので、多くが非公開だ。自然遺産に関しては、公開範囲が登録範囲の1%以下であることも珍しくない。
そしてなかにはほぼ全体が非公開となっている世界遺産も存在する。今回は訪ねたくても訪ねることのできないそんな世界遺産を紹介する。
誕生して50年しか経っていない自然遺産「スルツエイ(アイスランド)」
1963年11月、アイスランドの沖合約32kmで海底火山が爆発した。爆発は1967年まで続き、新たな島を生み出した。これがスルツエイ島だ。
爆発時よりこの島への立ち入りは禁止され、さまざまな学者によって注意深く観察が続けられた。
爆発の収まらない1965年にはすでに草が確認され、収束後の1967年からは多様な植物が定着をはじめた。1970年代にはカモメをはじめとする鳥類が繁殖し、鳥が増えるとそのフンにより土が作られた。
こうして2004年までに60種の植物、75種のコケ類、89種の鳥類、335種の無脊椎動物が確認されている。現在でも科学者による調査を除いて上陸が禁止されており、島の形成や生物が定着する様子がモニタリングされている。
なお、島の生態系や地層等を保護するために立入禁止となっている世界遺産には、ほかに「マッコーリー島(オーストラリア)」「ハード島とマクドナルド諸島(オーストラリア)」「パパハナウモクアケア(アメリカ)」がある。
観光できない動物の楽園「トゥン・ヤイ-ファイ・カ・ケン野生生物保護区群(タイ)」… 続きを読む