こんな理想像のような青年がいるのか。ソチ五輪のフィギュアスケートで、日本男子として初の金メダルを獲得した羽生結弦(19)=ANA=の話す言葉を聞き、行動を見るたび、そう感じる。スポーツの世界で頂点に立つ能力だけでなく、謙虚で聡明、心遣いができ、スタイルも良ければ顔も良い。小説やマンガの主人公をこんな人物にしたら、完璧すぎて読者の共感を得られないと編集者がボツにするかもしれない。
2月25日、日本選手団本隊の一員として帰国した羽生は、記者会見でこう話した。
「たくさんの応援をいただいて、金メダルをかけて帰ってこられたのは誇らしいですが、(五輪での)演技の内容には納得していない。(史上初めて100点を越えた)ショートプログラムは満足ですが、フリーは課題が残った。オリンピックチャンピオンとして、強いスケーターになれるよう、これからも頑張りたい」。帰国して何をしたいかを聞かれても、「特に何もない。早く練習して、世界選手権(3月、さいたまスーパーアリーナ)へ向けて頑張りたい」。金メダルで日本オリンピック委員会(JOC)と日本スケート連盟から各300万円、計600万円の報奨金をもらえるが、使い道は「震災(東日本大震災)の寄付をしたい。スケートリンクへの寄付で使おうかと思っています」。
彼の表情からは素直な気持ちで話していることが伝わってくる。会見場に入って壇上に上がる際には、出席したメダリストの中で彼一人だけ、報道陣に向けて深々と一礼をしていた。ご両親のしつけのほどがよく分かる。
被災してスケートを諦めそうになりながらも
2011年3月11日午後2時46分。羽生は4歳からスケーターとして育った仙台市泉区のアイスリンク仙台にいた。… 続きを読む