「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」(ユネスコ憲章前文より)
ユネスコの使命は教育・科学・文化を普及させることで戦争を防ぐことにある。これを実現するために、ユネスコは世界遺産活動においてもさまざまな挑戦を続けている。
今回は2012年前後から内戦に巻き込まれてしまったふたつの世界遺産、マリの「トンブクトゥ」とシリアの「古都アレッポ」に焦点を当ててユネスコの活動を紹介する。
「黄金の都」トンブクトゥの伝説
西アフリカにおいて、地中海とアフリカ内陸部を結び付け、サハラ交易を担っていたのが遊牧民族トゥアレグ人だ。アフリカ各地からもたらされる金や象牙はトンブクトゥに集められ、サハラ砂漠を縦断して地中海へ送られた。そして地中海の塩や陶磁器は同じルートを通ってトンブクトゥへ運ばれた。
トンブクトゥはマリ帝国やソンガイ帝国の時代に全盛期を迎えるが、「黄金の都」の伝説はマリ帝国皇帝マンサ・ムーサによってもたらされた。1324年にマンサ・ムーサはイスラム教の聖地メッカを巡礼するのだが、このときカイロやメッカで大量の黄金を奉納したため金相場が暴落。以後10年にわたるインフレと景気後退をもたらした。
トンブクトゥは経済的に栄えただけでなく、15世紀にイスラム教が伝わると数々のモスクや高等教育機関マドラサが築かれて文化的にも成熟。その繁栄は16世紀の大航海時代にポルトガルが大西洋を使った交易路を発見するまで継続した。
トゥアレグ人の苦悩とトンブクトゥ
地図で西アフリカを見ると、多くの国境が直線で描かれていることが確認できる。… 続きを読む