世界遺産全981件の中に、たった1件、所属国が記されていない物件がある。「エルサレムの旧市街とその城壁群」だ。エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3教合わせて35億人が奉じる聖地ながら、3,000年以上にわたって争いの絶えない土地でもあった。
エルサレムから10kmほど南にある街がベツレヘムだ。2012年にパレスチナがユネスコ(国際連合教育科学文化機関)に加盟し、「イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路」が世界遺産に緊急登録された。アメリカとイスラエルはこれに反発して分担金を凍結し、現在、ユネスコの投票権を喪失した状態にある。
今回は、世界平和の実現を目指すユネスコが抱える大きな課題を解説する。
ふたつの聖地、エルサレムとベツレヘム
紀元前13世紀頃、ヘブライ人(古代ユダヤ人)はエジプトで奴隷の地位にあったが、シナイ山で神のお告げを聞いた預言者モーセに率いられてエジプトを脱出する。海をふたつに割ったエピソードで有名な『旧約聖書』の「出エジプト記」だ。
モーセはシナイ山で神との契約を定めた「十戒」を授かると、十戒を刻んだ石板を「契約の箱=アーク」に収めて旅を続ける。
その後ヘブライ人はイスラエル王国を建国。第2代国王ダビデは、預言者アブラハムが息子イサクを神に捧げるために殺害しようとした場所にある「聖なる岩」を征服して、首都に定める。これがエルサレムだ。そして第3代国王ソロモンはこの岩の上にエルサレム神殿を建設する。
紀元前4年頃、ベツレヘムの馬小屋で、聖母マリアがイエスを出産する。このとき小屋の上空には美しい星がひときわ明るく輝いていたという。クリスマスの起源であり、ツリーの頂点に輝く「ベツレヘムの星」の由来だ。現在この地には聖誕教会が建っており、世界遺産「イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路」に登録されている。… 続きを読む