会社が市場から取り残され、このままではまずいと考えているが、変革に向けた第一歩を踏み出すためのヒントが欲しい方、必見。
創業38年、従業員数300名の中堅企業で突然営業部を率いることになった新人営業部長・榊原が取り組んだ12ステップの業務改革を紹介する。
ステップ9では、変革への地道な取り組みと目前の成果目標、ふたつ課題のあいだで榊原が苦悩する。いっこうに光の射さない見通しはトンネルのようだった。

絶対に白旗は上げない
朝夕の冷え込みが本格的になり、世間は既にクリスマスシーズンを迎えていた。夕暮れ時に会社を出ると、都心のオフィス街には会社帰りの若いカップルが行き交い、腕を組みながら楽しげに通り過ぎて行く。
そんな風景を眺めていると、我が身の辛さがより一層こたえる。小なりとはいえ営業組織の責任者であれば誰でも、余程順調に数字が積み上がっているか無責任な性格でもなければ、この時期が一番辛いのだろうな……と榊原は思う。その焦燥感は、新任営業部長の榊原にとっては初めての体験であった。そして、苦々しい思いで本部長の高橋や第一営業部部長の山野と対峙した前日のことを思い出した。
前日……、高橋から、「翌日午前中までに目標達成が大幅に危ぶまれる状況を挽回するための打ち手を説明に来い。マネジメントの点検だ」と言いつけられ、取り組み方針をひとまず資料にまとめた。この曙テクノという古い体質の会社においては、一度「マネジメントができない」というレッテルを貼られたらもうその評価は覆せない。榊原に白旗を上げさせたいという高橋の本心からすると、榊原が説明をしている最中も粗探しや揚げ足取りをしにくるであろうことが十分予測された。結局、根拠数字などを洗い出すために作業は明け方までかかってしまった。
せめて仮眠でもとっておくかと考えて近くのカプセルホテルでシャワーを浴び、狭い寝床で少しだけ眠った。そして低く響く目覚まし時計で起こされるや、慌ただしく会社に戻って、出社したばかりの秘書をつかまえて高橋の予定を押さえるように依頼をした。
榊原は、自席で待機して呼び出しを待つ間、いつになく緊張している自分に気づいた。… 続きを読む