2020年から本格的にサービスが開始された「ローカル5G」。「5G」はテレビCMなどでよく耳にしますが、ローカル5Gという言葉は、日常で耳にする人は少ないかもしれません。
ローカル5Gとは、通信事業者(キャリア)が提供する5Gとは違い、企業や自治体が独自に基地局を設け、局所的に独自のネットワークを展開することです。
「局所的」そして「独自のネットワーク」によってネットワークの混雑を回避できるなど、メリットが多いローカル5Gですが、免許制ということもあり、導入が難しい面もあります。
では、ローカル5Gを利用するにはどうしたら良いのでしょうか。今回の記事では、ローカル5Gの基本を確認しながら、ローカル5Gを利用するために必要なステップやローカル5Gの必要性、また、ローカル5Gの課題についても説明します。
目次
ローカル5Gとは何か?
ローカル5Gとは、通信事業者(キャリア)ではない企業や自治体が、一部のエリアもしくは建物・敷地内専用に5Gネットワークを構築することを指します。要するに、「自営による5G」のことです。
通信事業者によって提供されているパブリック5G(5G) は、都市部を中心に段階的に整備が進んでいるため、現段階では使用できるエリアは限られていますが、ローカル5Gの基地局はさまざまな場所に設置可能であるため、5Gの基地局がないエリアでも5G通信を行うことが可能になります。
5Gの特徴である「超高速」「多数同時接続」「超低遅延・高信頼」を、通信事業者に依存することなく局所的に実現するのが「ローカル5G」です。
ローカル5Gを利用するには?
ローカル5Gは限られたエリアで利用するという条件のもと、免許申請をする必要があります。
まず、社内で計画書のドラフトを作成し、事前検討を重ねます。その後、総務省(各総合通信局)への頭出しを行い、総務省や総合通信局と申請内容を整合、電波干渉調整先の情報を入手。
電波干渉調整先の情報を入手したら、干渉調整を行い、予備免許申請書を作成し、正式に申請します。総務局による審査が行われ、通過すると予備免許受領です。
予備免許を受領すると、電波法第10条に基づき総務大臣が無線設備などの検査を行いますが、問題がなければ商用局免許申請に進めます。商用局免許を受領したら、いよいよローカル5Gの運用が可能になります。ローカル5Gの免許申請は一般的に複雑な工程と言われているので、これらのステップをサポートしてくれるサービスも存在します。効率的に免許取得を目指すのであれば、利用検討の余地もあるでしょう。
ローカル5Gと5Gの違いについて
通常の5Gは、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンク・楽天モバイルの4つの通信事業者に通信ネットワークが割り当てられており、それらキャリアを利用している人が利用できるものです。
それに対して、ローカル5Gは、4キャリア以外の企業や自治体が活用できる、「局地的」という条件付きの免許制ネットワークです。
ローカル5Gと通常の5Gでは、通信に割り当てられている周波数帯(電波の通り道)にも違いがあります。
5Gで利用できる周波数帯は3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯に割り当てられていますが、ローカル5Gは、4.5GHz帯の200MHz幅と、28GHz帯の900MHz幅が割り当てられています。周波数が高いほど、より高速・大容量化を実現できます。4.5GHz帯は遮蔽物があっても電波が届く特性があり、28GHz帯はミリ波と呼ばれ大容量のデータを送れる一方、遠くに電波が届きにくい特性があります。ローカル5Gでは、工場などの広いエリアをカバーしたい場合には4.5GHz帯が、セキュリティを重視する場合はエリア外にデータを届きにくい28GHz帯での利用が見込まれます。
なぜ、ローカル5Gは必要とされているのか?
免許の申請が必要であるローカル5G。利用するためにひと手間かかるため、通常の5Gを利用すればいいのでは、と思われがちですが、手間をかけても利用したい企業や自治体が多いのには、理由があります。
■ キャリアに左右されない
キャリアの5Gネットワークは多くの人が利用するため、例えば災害が生じた場合や大きなイベントが開催された時は、ネットワークが混雑し、接続が困難になる場合も考えられます。
それに対して、ローカル5Gは局所的とはいえ、独立したネットワークです。ローカル5Gであれば必要な場所にピンポイントで5Gネットワークを構築できるため、キャリアの対応エリア整備の動向やネットワークの混雑を気にすることなく5Gネットワークを利用できるのです。
■ Wi-Fiより広範囲をカバーすることができる
これまでのビジネスで活用されてきた無線ネットワークといえば、多くがWi-Fiです。しかしWi-Fiはオフィスなどの狭い場所をカバーするのには向いていますが、広くて大規模な工場などの建物や、建設現場などの屋外をカバーするのにはあまり向いていません。しかし、ローカル5Gはもともと携帯電話向けの通信規格であるため、広エリアをカバーするのに適しているのです。
■ セキュリティが強化される
ローカル5Gは局所的なネットワークです。その上、外部のネットワークと完全に切り離して運用ができるため、運用者のミスや故意で情報を外に出さない限り、社外秘などの情報が漏えいすることはありません。社内のセキュリティ強化につながることから、各企業内でのローカル5G需要が増加傾向にあります。
ローカル5Gの課題とは?
産業拡大のためにローカル5Gが求められている反面、課題もあります。
■ コスト面
まず挙げられる課題が、コスト面です。ローカル5Gは2020年にスタートしたばかりのサービスであるため、導入の際、どれほどのコストが必要になるのか、不透明な部分もあります。
一部の通信企業では、初期費用100万円台のローカル5Gクラウドサービスの実証検証を行っていますが、実用化にはまだ遠いようです。現状わかっている範囲では年間の利用額のみですが、電波法で定められているローカル5Gと、ローカル5GとNSA(Non Stand Alone/ 4G・LTEの設備を流用するハイブリッドタイプの5G)の組み合わせで構成される自営等BWAの電波利用料の基地局当たりの金額は、以下の通りです。
設備
電波利用料
ローカル5G基地局
年額2,600円/局
ローカル5G陸上移動局
年額370円/局
自営等BWA基地局
年額19,000円/局
自営等BWA陸上移動局
年額370円/局
※参考:総務省「ローカル5G導入に関するガイドライン案」
■ ノウハウ不足
2020年にスタートしたばかりのローカル5Gの免許を取得するのは、当然ながら、これまで免許申請経験のない人たちばかりです。先ほども説明したように、ローカル5Gの免許申請は複雑であり、何ができなくてはいけないのか、何を用意すればいいのかなど、企業や自治体にとってはわからないことが多い点も、現在の課題となっています。
ローカル5Gの今後の動向は?
2019年12月に一般財団法人電子情報技術産業協会が、5Gの市場規模を示した世界需要額が2030年までに168.3兆円に到達するとの見解を発表しました。この調査は、国内外の関連企業・団体へのヒアリングをもとに定量的に推計したものです。その中でも新たな市場創出の期待を集めているのが、ローカル5Gです。
ローカル5Gは機密情報のセキュリティを高く担保できることや、通信の安定性が高いという点から、これまで無線化が進んでいなかった工場、農場、建設現場、イベント会場、病院などで導入が見込まれます。
そのため、ローカル5Gも、5G同様、世界需要額が増加するとされ、市場規模は年平均65.0%増で成長、2030年までには10.8兆円に拡大する見通しとのことです。
※参考:一般財団法人電子情報技術産業協会「5Gの世界需要額見通しを発表」
どのような業種や企業で活用できるのか?
では、ローカル5Gはどのような場面で活用できるのでしょうか。具体的には、以下のような例が挙げられます。
■ スマートファクトリー(工場)
近年、工場では人手不足が深刻化しています。そのため、可能な業務を自動化し、生産性を向上させることが急務です。センサーやロボットなど、ネットワーク化できれば業務効率の向上が見込めるため、無線化のニーズは高まっています。
スマートファクトリーにおいてローカル5Gのメリットは、高い安定性とセキュリティの担保。そして、希望するエリアに柔軟に対応できる点でしょう。キャリアの5Gの場合は、基地局をいつどこに設置するかは、当然キャリア側の都合で決定されます。ローカル5Gであれば、エリアや導入時期などをすべてユーザーの都合で決められます。
■ ネットでの映像配信
例えば災害時など、据え置きテレビが使えない場合でも、スマホ向けにネットで緊急特番などを配信し、避難者に視聴してもらうことができます。ローカル5Gを利用することで通信が混み合うことなく、その地域に特化した情報提供が可能になります。自治体があらかじめローカル5G基地局を設置しておくことで、災害時に自営による素早い情報収集手段を避難者に提供できるようになるでしょう。
■ 遠隔での機械の操作
建設機械の遠隔操作においても、ローカル5Gが活用できる可能性があります。これは、建機に設置されたカメラで撮影した映像や音声情報を、作業員のいる離れた場所に送り、専用の遠隔操作システムによって作業員がその場で操作するというものです。
ローカル5Gの特徴のひとつは「低遅延」。モニターの映像にタイムラグが生じにくく、リアルタイムかつ安全な遠隔作業が可能となるのです。建設現場全体をカバーするローカル5G基地局を設置すれば、現場のどこにいても建機を遠隔操作することが可能になります。
ローカル5Gに関する事例(PoC)
ローカル5Gは、さまざまな企業や自治体を中心に実証実験が始まっています。事例について紹介します。
■ 綜合警備保障株式会社(ALSOK)
ALSOK は、2021年1月からは京浜急行電鉄、NTTコミュニケーションズの3社でコンソーシアムを結成。総務省の令和2年度「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」 を受託しました。
京浜急行羽田空港第3ターミナル駅において、高度な警備サービスの実現と省人化による効率的な警備サービスの提供を目指し、ローカル5Gを活用した高精細4K映像を用いたドローンやロボットによる自動巡回・遠隔巡回、行動検知AIによる不審行動や歩行サポートが必要な方の自動検知を行うシステムの実証実験を予定しています。
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■ 株式会社ブリヂストン
株式会社ブリヂストンはNTTコミュニケーションズ株式会社と共同実証実験を2020年6月から開始しています。この実験では、ブリヂストンが所有する広大な工場敷地内における通信品質実験、大容量データ送受信実験などを行い、製造現場の5G活用領域を共同で実験・検討中です。
実験項目としては、電波伝搬試験(測定器・端末にて受信強度を複数拠点で測定)、通信性能試験(遅延や帯域性能を複数拠点で測定)、外部環境に左右されない独立した5Gネットワークであるローカル5Gを利用した各種アプリケーション試験などが挙げられます。
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■ DMG森精機株式会社
DMG森精機株式会社は、ローカル5Gを活用して、無人搬送車に人協働ロボットを搭載した自律走行型ロボット(以下AGV)の遠隔操作などを行う共同実験を、NTTコミュニケーションズ株式会社とともに2020年5月21日より開始しています。
生産現場におけるローカル5Gの電波伝搬、通信品質を調査・測定するとともに、ローカル5Gを介したAGVの遠隔操作を試験。高精細な位置情報・詳細な稼働情報取得による自動走行の精度向上や安全性向上、エッジコンピューティング側でのデータ処理負荷軽減による車体の軽量化など、AGVの高性能化への寄与が期待されています。
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輻輳しないネットワークが快適な通信を実現
このように、ローカル5Gはメリットが多い反面、免許制であることで導入に二の足を踏んでしまう場合もあるかもしれません。しかし、免許申請さえ乗り越えれば、独自に設ける局所的なネットワークで、キャリアの5G回線に比べて電波障害などの輻輳(ふくそう)リスクを低減できます。
5Gの特性を生かし、4Kカメラで撮影した高解像度の映像も、遅延がごく少ないネットワークで送受信が可能です。快適にさまざまな情報を入手できることはもちろん、混雑しない安定したネットワークで遠隔地の重機などを操作することも可能になるでしょう。
独立したネットワークならではのセキュリティの高さも注目を集めています。今後、ローカル5Gを導入する企業や自治体が増えることが予想されます。
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