BCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)対策などを理由として、自社のサーバーやストレージをデータセンター事業者の設備に預ける企業が増えている。その際、データセンターを比較検討することはよく行なわれるが、自社のIT機器をデータセンターに移設するサービスは軽視されがちだ。だが、データセンター活用の肝はそこにある。実際にIT機器をデータセンターへ移設した京三製作所と田島ルーフィングの事例を紹介し、その勘所を探る。
定期点検のたびにシステムを停止しなければならない
横浜・鶴見区に本社を置く京三製作所は1917年に創業した老舗企業。鉄道信号システムと交通管理システム、半導体応用機器の三つを事業の柱とする信号業界のリーディングカンパニーだ。
同社が自社のIT機器をデータセンターへ移設したのは2011年12月。それまでは、本社内にサーバールームを設けて管理していたもののいくつかの課題があった。
一つは自社に発電設備を持つものの、定期点検のたびにシステムを停止しなければならなかったこと。京三製作所の主な顧客となる鉄道会社は24時間365日営業を続けている。そのため、自社のITシステムも止めるわけにはいかなかったのだ。
二つめはBCP対策。本社社屋が被災した場合に事業を継続できなくなるだけでなく、電源供給がストップした場合もITシステムを稼働させることができなくなる。
三つめはサーバーの発熱。京三製作所は環境問題に取り組んでおり、電気の消費量を抑える方向で動いているが、サーバールームを冷却するための電気使用量を減らすことができなかった。
最後は京三グループ会社間のITシステムの連携に向けた対応。現在のITシステムは京三製作所、グループ会社それぞれで構築されているが、今後は京三グループ全体で情報システムを共有することを計画している。そのためには拡張性と柔軟性のあるシステムの構築が求められていた。
条件をすべてクリアしたデータセンター
京三製作所 情報システムセンターセンター長 小出浩氏
これらの課題を解決するために、京三製作所が取った手段がデータセンター事業者にIT機器を預けること。2009年夏に上記の課題を認識し、主にセキュリティ対策と災害対策に着目して横浜市と東京都内にある六つのデータセンターを比較検討した。
関西地区などではなく、本社に近いエリアでデータセンターを探した理由は、データセンターが堅牢になり、災害に強くなっていると考えたから。例えば、関東エリアで大きな地震があったとしても、データセンターは問題なく稼働し続けられると判断した。
「何か問題が生じても遠方にあるデータセンターではすぐに駆けつけられません。むしろ本社に近いエリアにあるデータセンターの方がいいと考えました」。京三製作所 情報システムセンター センター長の小出浩氏はこう話す。 データセンター選択の条件は四つ。
一つは横浜市内に立地すること。
二つめは自家発電装置を備えていること。これに関しては六つのデータセンターすべてが条件をクリアしていた。また、燃料業者との契約で、万が一、災害が起きたときに優先的に燃料を供給してもらえるようになっていた。
三つめはセキュリティ面の確保。これもすべてのデータセンターで大きな違いは見られなかった。
四つめの通信キャリアのサービスか否か。通信キャリアのデータセンターであれば強力なバックボーン回線を備えており、より安心して利用できると考えたからだ。
そして、このすべての条件をクリアしたのが、NTTコミュニケーションズの横浜第1データセンターだった。
“美しい”と表現できる配線の仕上がり
自社のIT機器をデータセンターへ移設する際に利用したのが、NTTコミュニケーションズの「ICT移転サービス」。エンドユーザーに対するサービスの停止から復旧までを24時間以内に終えることが要求事項だった。
「一日は仕方がないにしても、それ以上、ITシステムを止めることは許されませんでした」(小出氏)… 続きを読む