「京セラ」「第二電電(現KDDI)」を創業し、「JAL」を再建した稲盛和夫。成功の秘訣は「日々魂を磨いて、今日よりも明日、少しでもましな人間になること」だと説く。稲盛の経営は、なぜ成功し続けるのか?その真髄に迫る。
稲盛和夫の成功の方程式――考え方×熱意×能力
松下幸之助とともに経営の神様と称される稲盛和夫だが、松下が「経営の神様」なら、稲盛は「経営の仏様」と呼ぶべきかもしれない。65歳にして京セラ・KDDIの会長を退いたのち、あらためて人生とはなにかを学ぶため、得度(とくど、出家の儀式こと)をして仏門に加わっているのだ。
経営の一線を退いてから10年以上も経った2010年、経営破たんしたJALの再生を託されて会長に就任。その後JALが復活を遂げたことは、記憶に新しい。この事実は、稲盛の経営哲学が、成功の方程式として時代を選ばない普遍的なものであることを強く物語っている。
稲盛自身は、人生をすばらしいものとするための考え方を、次の方程式で表している。
「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」
それぞれの項目について、まずは簡単に説明しておこう。「考え方」は、心のあり方や生きる姿勢といった、理念や哲学のこと。次の「熱意」は、後天的な自分の意志でコントロールできる要素であり、事を成そうとする情熱や努力する心をさす。そして「能力」は先天的な資質であり、才能や知能を意味している。
それぞれの変数を100点満点で換算すると、「熱意」と「能力」は0~100点の値になるが、「考え方」は間違えるとすべてがマイナスの方向に進んでしまうため、-100~100点の値になる。よって、「考え方」が最も大切な要素なのだと稲盛は言う。
こうした稲盛の考え方は、著書『生き方』(サンマーク出版刊、稲盛和夫著)に著されており、ここから彼の経営手法の根幹をうかがうことができる。まずは、「熱意」の意味するところを詳しく見ていこう。
「熱意」とは――未来が見えるほどの強烈な願望
稲盛は、みずからの人生経験から「心が呼ばないものが自分に近づいてくるはずがない」という信念を強く抱いている。
まだ会社を創業して間もないころ、稲盛は松下幸之助の講演に足を運び、「ダム式経営」(ダムに水を貯めるように、資金や設備、人員などを蓄えて余裕を持ちながら経営すること)の話を聞く機会があった。その場でとある参加者から「ダム式経営ができればたしかに理想だが、どうすればできるのか?方法を教えてくれないことには話にならない」という不満がぶつけられた。
松下は温和な顔に苦笑いを浮かべながら、… 続きを読む