「理想論ばかり読んでも役に立たない」――。人との付き合い方に関する本を読んで、そのように思われたことがあるかもしれません。しかし、今回ご紹介する中国の古典「呻吟語(しんぎんご)」は、部下との付き合い方において実際に役に立つ古典です。

 著者である呂新吾(りょしんご、または呂坤[りょこん])は、16世紀の中国において、県知事などを務めた官僚で、組織、上司、部下、周囲の人々との問題を、自分が実際にどのように解決したのかを教えてくれます。そして、語られる内容は現代にも役立つものばかりです。上司として、部下と上手く付き合い要点を学びましょう。

 

デキる部下ばかりが集まるわけじゃない

 上司なら、有能な部下を集めて仕事をしたいと思うのが当然です。しかし、現実にはそういうケースはほとんどありません。そのような場合、多くの上司が仕事が「デキる部下」を基準に考えるでしょう。そして、ついつい自分でも気づかないうちに、仕事のできる部下とそうでない部下に対してかなり違う態度で接してしまうでしょう。そうなると、仕事が上手く行かない部下は上司の顔色ばかり伺うようになります。

 そうならないための心構えを、呻吟語が次のように教えてくれます。

「駱駝(らくだ)は百鈞(中国の重量の単位)もの重さを背負うことができるが、蟻はわずか一粒のものしか背負うことができない。それで駱駝も蟻も全力をつくしているのである。象は数石もの水を飲みほすが、鼠はわずか一勺の水しか飲むことができない。それで象も鼠も腹一杯に飲んでいるのである。君子が人を使う場合、必ずしも同じような実績を期待しない。相手がそれぞれの長所を発揮できるようにしむけるのである。(抜粋)」

 これは部下について、それぞれが自分の精一杯仕事をしようとしている事を上司が理解した上で、各部下ができる範囲でどのような仕事を与えることが重要であることを教えてくれます。

 さらに、仕事に対する適性を考える場合の要点も次のように述べています。

「相手のことを考える場合、六つの場合がある
 一、見識が不十分だったのではないか
 一、見聞きしたことが、実情とズレがあったのではないか
 一、力量が足りなかったのではないか
 一、心に何か人知れぬ悩みがあったのではないか
 一、どこかに気持ちのゆるみがあったのではないか
 一、何か別の考えをもっていたのではないか
                    (抜粋)」

 部下に仕事を与えたあと、自分の予想に反した場合は、部下を責めるのではなく、自分の判断に誤りがなかったか、部下に何か特別な問題がなかったかを確認しましょう。そのうえでの仕事を与えると、より適性に合致するでしょうし、部下から仕事の相談も増えるでしょう。

 

部下から教わる器の大きさが、上司としての価値を高める

 多くの上司が、部下から教わることは必要はないと考えているはずです。しかし、部下が得意な分野や、自分で調べると膨大な時間がかり効率が悪い場合などは、迷わずに部下に聞くという方法も、部下との付き合い方において必要でしょう。

 この点について、呻吟語では次のような話が述べられています。

「上役の一人が文章を作り、それを私に直してほしいと言ってこられた。私が固辞したところ、先輩はこう語った。『私は自分の短所を隠そうとは思わない。かりにあなたに笑われたとしても一人に笑われるだけだ。しかし、あなたに手加減してもらうと、天下の人々に笑われることになる』。私は、その誠意に打たれるとともに、その明知に感動した。(抜粋)」

 このように、自分の仕事をやり遂げるために部下にも協力を求める姿勢は、恥しいことではなく、より良い仕事を行い自分の能力を高める結果となります。さらに、部下からすると頼りにならない上司という印象は持たれず、逆に仕事に対して真摯に取り組む姿勢を尊敬されるでしょう。

 

余計な話ばかりする付き合い方は要注意

 最後に、上司から部下への付き合い方で気をつける点があります。それは、部下と個人的な会話ばかりしないことです。

 部下に対し、仕事についてよりも、個人的な会話をする上司がいます。たとえば、この前の休みには何をしていたか、交際している人はいるかを聞いたり、自分の自慢話や過去の仕事における武勇伝を語ることなどがあります。このような会話をしていると、上司からすれば親密なコミュニケーションがとれていると思うでしょうが、部下からすると嫌々ながら答えている場合が多いです。

 そのような勘違いをしないために、呻吟語では次のように述べています。

「君子というもの、知るべきことは知るように心がけ、知るべきでないことは知ろうとしない。知るべきことを知ろうとしないのは愚かであり、知るべきでないことを知ろうとするのは詮索となり好ましいことではない(抜粋)」

 部下に対しては基本的には仕事の内容についてはしっかりと会話をして、個人的な内容の詮索は行うべきではありません。部下の方から自分の事を話してきた場合にしっかりと答えるのがよいでしょう。

 

感情を抑えられない上司は部下から信頼されない

 今回は呻吟語から部下との付き合い方の要点を学びましたが、共通することは、部下に対して相手の立場を考えた付き合い方をするという“姿勢”を身につけることの重要性です。

 会社組織において、トップや上司に対しては細心の注意を払って話をするでしょう。また、同僚や他の部署であまり接点のない相手にも、ある程度の注意をするでしょう。

 しかし、相手が部下となれば、上司である自分に権限があることに甘んじて、部下のことを考えない言動を行い、時には感情を抑えることができなくなる場合もあります。しかし、そのような付き合い方では部下から信頼は得ることは難しいです。

 自分が上司としての配慮が足りずに部下との付き合いをしていると感じたのであれば、まずは呻吟語の教えを実践してみましょう。今回の内容はすぐに実践できます。最初からこれら全部を同時に行うのは難しいと思う方は、何か1つでも取り組んでみましょう。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2015年3月12日)のものです。

荒尾 つよき

荒尾 つよき

フリーライター

起業&経営資料作成所(http://www.asian-consultants.com/)を運営。起業や経営に必要な会計、営業、経営課題解決に関わる内容を執筆している。

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